「てまひまオンライン」に並ぶ“おいしいもの”の生産者さんを訪ね、自然と向き合う姿勢や、ものづくりの哲学を訊く「食の匠のてまひまストーリー」。第10回は、岩手県北部の軽米町で、無農薬・有機栽培・無添加の「えごま油」を生産している尾田川農園さんを訪ねました。代表の尾田川勝雄さんが語る、体にやさしい食材への熱い想いとは。ぜひ動画でご覧ください。
雑穀は人生の分岐点。
そして、宝物の発見でした。
岩手県は、粟(あわ)・黍(きび)・稗(ひえ)といった雑穀類の生産量で日本一の規模を誇ります。なかでも、九戸郡軽米町(かるまいまち)を中心とした県北部で作られる雑穀は、他の地域のものと比べて格段に良質なことで知られています。
周りを丘陵に囲まれた軽米町では、集落や田畑のほとんどが標高200〜300メートルの地帯にあり、冬の寒さの厳しさは相当なもの。そうした環境に適していたのが雑穀類であり、古来より人々の手で大切に受け継がれてきました。
そんな軽米の雑穀生産を牽引しているのが、尾田川農園代表の尾田川勝男さん。もともと雑穀などを栽培する農家でしたが、アトピー性皮膚炎だった娘さんのために、より体にやさしい、安全な食材を作ってあげたいという思いから、無農薬・有機栽培に転向したと言います。
その後、近隣農家との契約栽培を始めた尾田川さん。生産した雑穀類を使った無添加の加工品の生産・販売にも乗り出し、伝統の雑穀栽培を守ると同時に、6次化によって事業としての成長を図ります。現在では150件以上の農家と契約し、粟・黍・稗をはじめ、はと麦、たかきび、アマランサス、黒米・赤米といった数多くの雑穀・有機米と、それらの加工品を手がけています。
「岩手えごま油」も、そうして作られる商品のひとつ。エゴマとは、ゴマの仲間ではなくシソ科の植物で、れっきとした雑穀の一種。特に、その種から豊富な油が取れることで古くから重宝されてきました。近年では、健康維持に欠かせない「オメガ3系脂肪酸」を多く含んでいることでも注目されています。
尾田川さんのおすすめは、朝食のヨーグルトにスプーン一杯の「えごま油」をかけて食べること。そのわずか一杯が、長く健康的に過ごすための土台になってくれるのだそうです。それは、農薬を使わずに有機栽培で丁寧に育てられたエゴマの一番搾り油だけを使った、純度の高い「えごま油」だからこそ得られる自然の恵みなのでしょう。
尾田川農園の「えごま油」には、ひとつひとつ、原料であるエゴマを生産した契約農家の名前が書かれています。つまり、各農家から持ち込まれたエゴマごとに分けて、それぞれ別々に油を搾っているのです。栽培だけでなく、加工の段階においても一切の手間を惜しまない、そんな真摯な姿勢が伝わってきます。
「雑穀は人生の大きな分岐点となりました。それと同時に、大切な宝物の発見でもあったのです」と語る尾田川さん。黄金色に輝く「えごま油」の向こう側に、軽米の豊かな大地と、そこで雑穀栽培に励む人たちの熱意が見えてくるようです。
●尾田川農園 https://odakawanouen.com/
動画・写真/細沼孝之(kotofilm) 録音/林 健太 文/ドイエツコ