てまひまストーリー VOL.9/佐々長醸造(岩手県)

「てまひまオンライン」に並ぶおいしいものの生産者さんを訪ね、自然と向き合う姿勢や、ものづくりの哲学を訊く「食の匠のてまひまストーリー」。第9回は、岩手県花巻市で100年以上続く老舗の蔵元「佐々長醸造」専務取締役である佐々木洋平さんにお話をうかがいしました。先人の知恵と伝統を守り続ける、ものづくりへの実直な想いを、ぜひ動画でご覧ください。

ただただ馬鹿正直に……

それこそが佐々長のものづくりです。

 

 

明治39年(1906年)創業の佐々長醸造株式会社。その専務取締役を務める佐々木洋平さんは、佐々木博社長の長男で、100年以上の歴史を誇るこの蔵元の五代目。佐々長醸造はもともと造り酒屋でしたが、初代・長助は「酒は飲める人が限られる。もっと幅広く、子どもからお年寄りにまで親しんでもらえる商品を造りたい」と思い立ち、味噌・醤油の醸造に切り替えました。

それから60年近くの時を経た三代・喜七のとき、蔵の近くの山麓で湧き水の源泉を発見します。掘削して醸造用の仕込み水として使ったところ、味も香りもまったく違うものになったそうです。これによって佐々長醸造を代表する商品となったのが、「老舗の味 つゆ」です。

佐々長醸造のモットーは「品質第一」。とにかく丁寧に、「馬鹿正直に」、伝統の製法を継承することだけを考えている、と話す佐々木さん。明治時代に造られ、100年以上も使い続けられている大きな木樽は、現在でも、醤油の前段階であるもろみの熟成に使われています。

つゆ製造において特にこだわっているのは「だし」。分厚く削られた上質なカツオ節をたっぷりと使い、専属の職人が時間をかけて手作業で抽出。エグミを出さないために搾ることはせず、澄んだ色の「一番だし」だけを使用します。少々もったいない気もしますが、それこそが上質なだしの味を生み出す決め手だから、その製法を守っている、といいます。

こうして出来上がる「老舗の味 つゆ」は、本格的な味を求める人たちの間で評判となり、東京の高級スーパーでは品切れになることもあるとか。さらに、復興庁主催の「世界にも通用する究極のお土産10選」コンテストでは、全496品の中から、大手小売企業のバイヤーたちによる一次審査、全国に流通販路を持つプロ10人による最終審査を通過し、見事10選に選ばれました。

東北新幹線の新花巻駅から車で10分ほどのところに蔵と工場を構える佐々長醸造。併設されている直売店では、各種商品を買うことができますが、それ以上に目を引くのは、店の奥に滔々と流れる湧き水。そう、佐々長の味を変えた、あの湧き水です。

近くにそびえる早池峰山(日本百名山)の一帯の雪解け水が山肌に浸みこんで濾過された地下水は「早池峰霊水」と名付けられ、販売もされていますが、ここでは誰もが汲み放題。大きなポリタンクをいくつも抱えて、日課の水汲みに来た親子もいました。佐々長醸造と、この蔵を守り続けてきた人々、そして地元の方たちとの、誠実で揺るぎない関係を垣間見ることができました。

 

●佐々長醸造 https://www.sasachou.co.jp/


動画・写真/細沼孝之(kotofilm) 録音/林 健太 文/ドイエツコ