寿司職人、岡田大介さんにきく、おいしい酢飯の作り方【てまひまだよりVol.14】

食を愛する人々に、料理や食材について熱く語っていただく「食通たちのてまひまだより」。手巻き寿司や恵方巻を作る上で要となる“酢飯”に焦点をあてます。料理家で作家の樋口直哉さんが話をうかがったのは、郷土寿司を継承するため日本各地を飛び回り、珍しい魚を見に行くためには自ら海にも潜るという寿司職人の岡田大介さん。おいしい酢飯をつくるためのポイントを教えてもらいました。

丸正酢醸造元の純こめ酢脱サラファクトリーの自凝雫塩ゆうすげの里の純粋黒糖パウダー(粗糖)、手巻き寿司や恵方巻づくりに役立つ酢飯セットを紹介します。

樋口: てまひまオンラインで扱っている調味料からすし酢をつくる、となると、この3つの商品になるかな、と思います。まずはそれぞれについて教えてもらえますか?

岡田:まず丸正酢醸造元の純こめ酢ですが、ぼくの酢飯屋でもずっと使わせていただいている大好きな酢のひとつです。酢飯をつくる際、酢だけ舐めたときに米感を感じるものを大切にしています。純こめ酢は、そんな米の味と木桶の香りがほんのりするという今では貴重な酢だと思います。また、酢ならではのツンツンとした酸味が苦手な方にも使いやすいと思います。

樋口:そもそも酢飯における酢の役割や、酢飯をつくる際に大切な要素はなんでしょう。

岡田: 合わせ酢をつくるときに、酢と砂糖と塩を入れてから、あたためて酢を飛ばす方がいらっしゃいますが、それが適しているのは酢の物など。酢飯をつくるときは、酢酸を飛ばし過ぎず、“酢感”を残すことが大切です。

樋口: 脱サラファクトリーさんの自凝雫塩はいかがでしたか?

岡田 まず、溶けやすいですね。粒が大きい塩は溶けにくい印象があるかと思いますが、使ってみるとみなさんが思っている以上にすぐに溶けます。塩自体の味も良く、味見の際に4回も味見しちゃいました。身体の中で何かが足りていないのかな、と思うぐらい。笑 酢飯をつくるポイントとして、合わせ酢は先につくっておいてほしいんです。塩や砂糖が溶けていない状態のままご飯にかけると、味むらが出たりします。この塩は即席でつくってもすぐ溶けますが、すし酢はあらかじめ作って涼しいところで保存しておくのがいいですね。

樋口: ゆうすげの里の純粋黒糖パウダー(粗糖)はいかがでしたか。

岡田 粗糖はうちのオンラインでも扱っていたんですが、果物と相性がいいので、フルーツジュースや自家製ドリンクを作ることが多いですね。すし酢を作るとき、上白糖ではなく、粗糖でつくってみようとした時期があるんです。黒糖でも試したんですが、ハマグリや煮アナゴなど、わかりやすい甘さのある寿司には合うのですが、ほかは魚の味がよくわからなくなっちゃって。粗糖は、“甘み”を感じさせすぎない、ほどよい甘さ、それがよさだと思います。ただ、サトウキビ由来なので、香りがちょっと残るんです。ただ、今回の粗糖はなかでも若い粗糖。作って間もなく色も香りも穏やかなので、酢飯に使いやすいと思います。粗糖は保管していくと、だんだん粗糖自体にコクがでて、色も黄金色に変わっていくので、煮豚などをつくるのに最適です。熟成していくイメージで、味の変化が楽しめる調味料ですね。

樋口: 砂糖の熟成はおもしろい。粗糖は水分が入っているので味の変化が楽しめるのか。

岡田 季節によって固まったり、湿気でまたサラサラに戻ったりを繰り返し、硬い、サラサラを繰り返し、数年放置すると色が変わってくるので、使う用途も変わっていくという感じです。

樋口: 究極、酢飯には砂糖はなくてもいいかなと思いますが、恵方巻の酢飯には入れたほうがよいでしょうか?

岡田: 入れていいと思います。ただし、その日に食べるものだし、シイタケやアナゴ、卵など甘い味付けをした具材が入るので、酢飯自体は甘味をおさえたほうがバランスがよいと思います。

樋口: 岡田さんの酢飯は砂糖入りとなしがありますが、どう使い分けているんですか?

岡田: 酢飯ってそれだけ食べてもおいしいじゃないですか。淡泊な魚でも酢飯で食べたらおいしく感じるんですよね。逆に言うと、魚の美味しさを表現したいとき、酢飯がおいしすぎると魚の味が負けてしまうんです。江戸前寿司で、赤酢をいれるお寿司屋さんは酢飯に砂糖入れていません、っていうところは、魚に自信があるんだと思いますね。ぼくは魚を前に出したいときは、砂糖なしの酢飯を使います。塩を入れないこともあるんですよ。

樋口: 江戸前寿司の酢飯って塩分濃度が高いところもあるんですが、岡田さんのお寿司は塩分濃度も強くない印象です。塩分についてはどう考えていますか?

岡田: うちのお店の酢飯は何パターンかあるんですが、食べたときに酢が足りない、塩気がたりない、甘さが足りないと思う人が結構いると思います。寿司なので、魚とご飯をしっかり感じていただくために、優しい味付けにしているんです。なので、今回、お教えするすし酢の配合も、再現した際には物足りなく感じてしまう方がいるかもしれません。

樋口: 話が長くなってしまってすみません。すし酢用の合わせ酢の配合を教えてください。

岡田: 三合のご飯に、粗糖が20g、塩6g、酢が50mlです。三本ぐらいの箸などでまぜれば塩や砂糖もすぐに溶けます。

樋口: 酢飯用のご飯はかために炊くのがポイントだと思いますが、家庭でご飯を炊くときのポイントはありますか?

岡田: 米を水に浸漬させないこと。水加減はもちろん、米の品種も重要ですね。新米のコシヒカリで美味しい酢飯をつくるのはお薦めしません。米を研いだらすぐに炊き始めること。そして、炊きあがりは、水分量を少なく炊いているので、そんなに水分を飛ばさなくてもいいです。一番湯気があがるときに酢をまぜると酢も飛んでいってしまうので、今回のレシピに関しては、炊いですぐではなく5分以内に合わせ酢をまぜていく、というイメージですね。

また、炊きあがりのごはんをうちわなどであおいで冷ます方も多いと思いますが、僕はお店で酢飯をつくるときはあおぎません。それは厨房が広く、天井が高いことや、換気扇がすぐ近くにあることから。冷ますために仰ぐのは大急ぎで酢飯が間に合わないときぐらいです。逆に熱いうちに一気に冷ますとべたっとしてしまうので要注意ですね。

樋口: お米が酢を吸収する前に温度が下がると、それ以上水分を吸収しなくなるので、あおがない方が本来はよい、ということですね。道具についてはどうでしょうか?

岡田: 木の飯台があるとベストですが、お持ちでないご家庭であれば、木の皿がお薦めです。深いボウルよりは、木が水分を吸うことや均一に広がることでまぜやすくなります。

樋口: この酢飯に合う恵方巻の具材はどんなものが挙げられますか?

岡田: なんでも合うと思います。酢飯は合わない食材がないですからね。お肉や野菜でも合うわけで。色々チャレンジしてみてください。また、合わせ酢は事前にまぜておくこと、そして常温で保管できるので、常備しておくとすごく便利です。

名前はすし酢かもしれませんが、万能酢調味料として、酢の物やドレッシングとしても活用できて便利です。

樋口: そういえばオランダのシェフがバターソースつくるのに、すし酢とエシャロットを煮詰めてつくるって言ってました。本当にすし酢って万能ですよね。

岡田: それは仲良くなれそうですね。笑

 

酢飯の合わせ酢は、酢、砂糖、塩、というごくごくシンプルな調味料を合わせたもの。常備しておくと便利な合わせ酢には、おいしい黄金比を知ることで、素材の味をいかすことができ、また料理の幅も広がりそうです。今年の恵方巻は、ぜひ酢飯づくりからこだわってみてはいかがでしょうか。

【おいしい酢飯のつくり方】

★材料

ご飯—3合
丸正酢醸造元の純こめ酢−50ml
自凝雫塩−6g
純粋黒糖パウダー(粗糖)−20g

★つくりかた
1.   酢、塩、粗糖は分量をまぜて合わせ酢をつくり、常温で置く。
2.米は三合分、通常より水加減を少なくするなど、かために炊く。
3.炊きあがったら飯台にうつし、5分以内を目安に合わせ酢をしゃもじに伝わせるように全体にまわしかける。
4.表面の熱を取り、人肌の温度になるまで冷ます。

ポイント
①急いでいるとき以外は、水分で酢が飛んでしまわないように、あおぎすぎない。
②飯台やすし桶は事前に濡らしておき、酢飯を入れたら、ぬれ布巾をふんわりかけておく。飯台やすし桶がない場合は、水分を含み、浅くごはんを敷ける木製の皿がお薦め。バッドなどでも代用可能。

 

岡田大介
1979年生まれ。寿司職人歴25年。東京都文京区江戸川橋駅近くにて、完全紹介制のすし屋「酢飯屋(すめしや)」を経営。店舗で味わうお薦めの食材を「神楽市場(かぐらいちば)」としてオリジナル商品にして販売するほか、日本各地の寿司文化を継承するため、郷土寿司を習うことをライフワークとしている。著書『季節のおうち寿司』(PHP研究所)や写真絵本『おすしやさんにいらっしゃい』(岩崎書店)も好評発売中。
樋口直哉
作家・料理家。服部栄養専門学校卒業後、料理教室勤務や出張料理人などを経て、2005年に『さよならアメリカ』で群像新人文学賞を受賞し、作家デビュー。同作は芥川賞候補にもノミネートされる。作家として作品を発表する傍ら、料理家としても活動。主な著作に小説『スープの国のお姫様』(小学館)、料理本『最高のおにぎりの作り方』(KADOKAWA)など。noteでも積極的に食の情報を発信。
※樋口さんのnote:https://note.com/travelingfoodlab

 

 

 

・構成/江嶋留奈子