人気料理家、樋口直哉さんと食のバイヤー、吉岡隆幸さんがてまひまオンラインから選ぶ3品【てまひまだよりVol.13】

食を愛する人々に、料理や食材について熱く語っていただく「食通たちのてまひまだより」。今回は対談形式の特別編。人気料理家の樋口直哉さんと食のバイヤー、吉岡隆幸さんに、てまひまオンラインから選ぶとっておきの3品を教えていただきました。

人気料理家、樋口直哉さんが選ぶ3品

36° MIYAYUZU果汁/床井柚子園 ¥756


樋口さん:まず挙げたいのは、床井柚子園さんの「36° MIYAYUZU果汁」。柚子栽培の北限と言われている栃木県宇都宮で作られている柚子果汁です。じつは柚子果汁には製品ごとに味や香りの違いがしっかりとあります。この「36° MIYAYUZU果汁」の特徴は、味に厚みがあること。ボディ感があって甘味もあります。お酒と割るだけでもおいしい。

吉岡さん:以前、樋口さんは松屋銀座で開催されたポップアップイベントで「36° MIYAYUZU果汁」を柿と合わせていらっしゃいましたよね。

樋口さん:柚子と柿は相性がすごくいいんです。甘味はあるけど香りがない柿に柚子が香りをつけてくれる。正直、ぼくは栃木県で柚子が作られていることを知らなかったのですが、こういうローカルな良品に出合うことができるのがてまひまオンラインのいいところ。自由な旅がままならない現在、“食”で旅気分を味わうことができるのは楽しいですよね。

吉岡さん:床井柚子園さんは熱心に6次産業化に取り組んでらっしゃる生産者です。柚子果汁のほかにドレッシングや柚子のフリーズドライなども作られています。

樋口さん:ドレッシングはカルパッチョにも合いそうですね。柚子果汁大さじ1、薄口醤油大さじ1、オリーブオイル大さじ2を混ぜるだけでおいしいドレッシングになりますよ。

純こめ酢/丸正酢醸造元 ¥594


樋口さん:このお酢はすごくうま味が強いんです。口に含むと品のいい木桶の香りがかすかにあります。木桶仕込みのお酢ってめずらしいんですよ。この味は蔵に住む菌がつくるもの。場所と環境が大事なんですよね。基礎調味料っておざなりになりがちで「何でもいいじゃないか」と思われるかもしれませんが、料理にはすごく重要。それを変えるだけで味がぐんと変わります。特にお酢はそのパワーが感じられるはず。

吉岡さん:どう使うのがおすすめですか?

樋口さん:ちょっと季節外れですが、ぼくは冷やし中華のたれにぴったりだと思います。冷やし中華のたれはツンツンした味になりがちなのですが、すっきりと仕上がりますね。作り方はシンプルで、こめ酢、だし、薄口醤油、砂糖、ごま油、生姜汁を混ぜるだけ。そうめんのつゆに混ぜて「酢そうめん」にするのもおすすめです。

簡単な活用方法とともにおすすめの商品を教えてくださった樋口直哉さん。

燻製紅茶 桜/カネロク松本園 ¥1,080


樋口さん:柚子果汁、酢と続いて酸っぱいもの好きと思われてしまうかもしれませんが(笑)、最後に挙げるのは酸っぱいものではなく燻製紅茶です。この商品は僕のなかで発見でしたね。ある時、チーズケーキに何が合うかを考えていたことがあって、コーヒーや紅茶をいろいろと試したのですが、燻製紅茶との相性が抜群でした。

吉岡さん:どんなタイプのチーズケーキが特に合いますか?

樋口さん:レアでもベイクドでも。まったりした濃厚なものが特に好相性です。チーズケーキのほか、パウンドケーキにもよく合いますね。ブランデーに漬けたドライフルーツと燻製の香りがすごく合うんです。ノンアルコールのペアリングとしておすすめです。赤ワイン煮、ビーフシチューなど煮込み系やステーキなど肉料理にも合いますよ。


食のバイヤー、吉岡隆幸さんが選ぶ3

ハンディゼリー6種 1セット/かじ坊 ¥2,592


吉岡さん:僕は仕事柄、農家さんの製品を推したいということもありまして、ひとつめは柑橘農家さんが手がけるゼリーをご紹介します。みかんゼリーというと温州みかんを使ったゼリーを思い浮かべる方が多いと思いますが、かじ坊さんは20種類くらいのみかんを作っていらっしゃるので、ゼリーも多様。6種のセットで食べ比べができるのがいちばんの魅力ですね。色の違いも楽しめます。このゼリーがきっかけになって、かじ坊さんのみかんを食べたいと思ってくださるようになったらいいなと思っています。

樋口さん:ゼリー自体がおいしいから、料理に応用する必要はないですね。ヨーグルトに添えるくらいかな。みかんそのものの味を楽しんでいただきたいですね。

梅と紫蘇チューブ/うめひかり ¥720


吉岡さん:2品目は、パッケージにも書いてありますが通称“梅ボーイズ”の梅商品です。

樋口さん:きたねー! 名前を聞くだけで口のなかが酸っぱくなっちゃう。

吉岡さん:いいことを言ってくれた!(笑)  そう、この商品の背景には“甘くない”梅干しをつくるのに情熱を注ぐ青年の物語があるんです。作り手の山本くんと初めて会ったのは、彼が大学生の時。軽トラックで日本を一周して梅を広めようとしたおもしろい青年なんです。和歌山の紀州南高梅の農家の息子で、はちみつ漬けなど甘い梅が主力商品となっているなか、昔ながらの酸っぱい梅にこだわっているんです。まだ27、8歳ですかね、若く新しい力を感じる作り手さんですね。海苔巻きやおにぎりの具材におすすめです。

樋口さん:僕もこのチューブを持っているのですが、玄米との相性が最高。これと玄米だけで完成したごはんになります。ほかの梅紫蘇に比べて少し紫蘇のカットが大きめなのも特徴ですね。

食を通して長い付き合いだという吉岡さん(写真左)と樋口さん。

鳥取県産大山こむぎ パンケーキミックス粉/大山こむぎプロジェクト ¥540


吉岡さん:最後にご紹介するのは、パンケーキミックスです。この商品にも情熱あふれる作り手さんたちの物語がありまして……。30年ほど小麦栽培がなかった鳥取県で、上質な小麦を復活させようという試みのもとにうまれた大山こむぎプロジェクトさんの商品です。5年前、仕事で鳥取に行った際に作り手さんたちにお会いしたのがこの商品を知ったきっかけですね。大山こむぎは味が濃くて、パンにしてもピザにしてもパスタにしてもおいしいんです。

樋口さん:小麦によってパンや料理の味が大きく変わるってこと、知らない人が多いよね。僕もそうで、国産小麦のパンが出はじめてから気づいた。そもそも小麦を品種で選ぶっていう考えがなかったから。でも、小麦でびっくりするくらい味が変わるんですよ。

吉岡さん:うんうん。そういう意味で、おいしい小麦粉とはどんなものかと教えてくれる商品ですね。大山こむぎプロジェクトさんは「自分たちの小麦を広めたい」という思いがあるから、パンケーキミックスやパスタ、うどんなど家庭で気軽に楽しめる商品に落とし込んでいらっしゃって、そこがいいですよね。センスを感じます。

樋口さん:地元の小麦を使ったパンケーキミックスは九州や東京でも作られていますし、小麦×地域というジャンルは今後も広がりが期待できますね。


ふたりが語る、食にまつわる自分の“てまひま”

―最後に、おふたりの“てまひま”について伺いましょう。樋口さんが料理をするうえで欠かせない“てまひま”を教えてください。

樋口さん:料理って“てまひま”の集積なんですよね。“てま”=工程(手数)と“ひま”=時間、両方とも必要。今、世の中はどちらも減らす方向に向いています。でも、物事がおいしくなったり、成熟したりするには時間がかかるんですよね。そこを人間中心になって短縮してしまわず、食材や調味料が欲している時間に従うこと、これが重要だと考えています。

―吉岡さんにとって、商品をセレクトや販売するうえで欠かせない“てまひま”を教えてください。

吉岡さん:人に説明したくなる商品……商品を説明する“てま”がかかって、人の“ひま”=時間を頂戴する商品、つまり“てまひま”がかかる商品を大切にしています。味の説明だけではなく、作り手さんの背景や思いを伝えることで、価格以上の意味がうまれるのではないかと感じています。先ほどの樋口さんの話を伺ってふと思ったのですが、加工された食品は、作り手さんが“てまひま”をかけてお客さんの“てま”を減らしているという考え方もできますよね。例えばてまひまオンラインで販売している出汁パックや麹ソルトは、お客さんの“てま”を減らして、かつ本格的な味に仕上げてくれる商品の筆頭格。そういう考え方は素敵だと思いますね。

久右衛門 あわせだし/林久右衛門商店 ¥756

 

麹屋の麹ソルト/麹屋もとみや ¥518


樋口直哉
作家・料理家。服部栄養専門学校卒業後、料理教室勤務や出張料理人などを経て、2005年に『さよならアメリカ』で群像新人文学賞を受賞し、作家デビュー。同作は芥川賞候補にもノミネートされる。作家として作品を発表する傍ら、料理家としても活動。主な著作に小説『スープの国のお姫様』(小学館)、料理本『最高のおにぎりの作り方』(KADOKAWA)など。noteでも積極的に食の情報を発信。
※樋口さんのnote:https://note.com/travelingfoodlab
吉岡隆幸
株式会社eff/合同会社SOZO代表、フードコンダクター。effでは豊洲市場と潮見に営業所を置く卸売業者として、都心部の飲食店やスーパーに食材を卸しているほか、合同会社SOZOでは地域の活性化を目的とし、新商品の企画・開発・ブランディング、商品のPR、販路開拓支援、食にまつわるイベントの企画・運営・食材調達、講演などを行う。

写真/安達紗季子 取材・構成/門前直子