てまひまストーリー Vol.3/ハワイアングロット(沖縄県)

「てまひまオンライン」に並ぶ“おいしいもの”の生産者さんを訪ね、自然と向き合う姿勢や、ものづくりの哲学を訊く「食の匠のてまひまストーリー」。第3回目は、沖縄県石垣市でジンジャーシロップの製造・販売を行う「ハワイアングロット」の思いをお伝えします。

 おいしくて体にもいい、
ジンジャーシロップは私の元気のもと。


ハワイアングロットを訪ねたのは、まだ暑い盛りの9月の初旬。湿度の高い海風の吹く中、時折スコールもあり、ああ、石垣島にいるのだなという実感がわいてきます。「まずは冷たいものでもどうぞ」と、代表の加藤雪子さんが優しい笑顔で差し出してくださったのは、冷たい水で割ったジンジャーシロップでした。汗やほてりがすっと引いていきます。 

「生の生姜は体の熱を冷まし、一方で加熱すると毛細血管を広げて血の流れをよくし、体を. 温めてくれるんですよね。夏にも冬にもおすすめな食材です」と加藤さん。いただいたドリンクは甘みと辛みのバランスがちょうどよく、浮かべたシークワーサーが爽やかなアクセントを醸し出しています。そもそも、どうしてこの地でジンジャーシロップを作ろうと思われたのでしょうか。

「そもそもは1998年、石垣島の港の近くで小さなバーを始めたことがきっかけです。のちに住宅街の近くに移転したので、カフェメニュー的なパンケーキやオリジナルドリンクを考案し、そのためにジンジャーシロップを手作りしていました。それが好評で、お客様から分けてほしいとご要望をいただき、瓶に小分けしてお配りしたのが誕生のいきさつです」 

そこからさらに人気に火がつき、いまでは「黒糖ジンジャーシロップ」「スパイシージンジャーシロップ」「にごり黒糖ジンジャーシロップ」「ソルティーレモンジンジャーシロップ」「ハイビスカスジンジャーシロップ」「珈琲ジンジャーシロップ」と、バラエティに富んだ味わいが楽しめる人気商品となりました。今回、てまひまオンラインで扱っているのは、八重山の食卓には欠かせない島胡椒ピパーツがピリッとしたアクセントをもたらす、スパイシージンジャーシロップです。

 シロップの甘さ、辛さ、コクのバランスをとる上で、いちばん大事にしていることは何でしょうか。この問いに答えてくださったのは、シロップ作りを担う製造責任者の西山永明(にしやま・ひさあき)さんです。

 左:「ゆきさんのスパイシージンジャーシロップ」のメインの材料。左から、波照間島産の黒糖、島胡椒ピパーツ、生姜、レモングラス。右:ハワイアングロット代表の加藤雪子さんと、製造責任者の西山英明さん。優しい笑顔と楽しいおしゃべりで迎えてくださる、お2人の人柄に惹かれて、ついつい長居してしまうお客さまも多いとか。


味の決め手は、コクの深い波照間島の黒糖。


西山さんは、こう語ります。
「もちろん、よい食材を選ぶことが大事です。いろいろな産地のものを吟味して、いま使っているものに行き着きました。石垣島の生姜は、土地の水分量が少ないので、小さいけれど味が凝縮しています。シロップにするには生姜自体にやや辛みを感じられるほうがいいのですが、主張しすぎてもいけない。その点、石垣島の生姜はぴったりなんです。また、生姜は皮と身の間に香りやいい成分があるので、皮を剥きすぎず、旨味を十分に引き出すことも大切にしています」

「彼はもともとバーテンダーだったので、味のバランスをぴたりと決められる感覚の持ち主なんです。完成したシロップがどんな料理や飲み物に合うか、毎日の天候や気温や湿度のこと、そのあたりもきちんとイメージして作っています」と、加藤さんも全幅の信頼をおいています。

「黒糖は、いろいろ試した結果、波照間島産に落ち着きました。決め手はコクの深さです。スパイシージンジャーシロップの場合はあと島胡椒のピパーツを加えます。辛すぎず、香りが立っていて、でもピリッとした刺激は感じられるのがいい。辛み部分をもう少しプラスするために赤唐辛子も使っています。香りづけにレモングラス、そして、水。実はいちばん水が大事かもしれません。台風や日照りが続くと、水質も変わるんです。だから日々、水の状態を見ながら、加える量や煮る時間を微調整します」

そんなふうに西山さんが味のバランスを取りながら作ったシロップは、加藤さんがこだわる「安心、安全でていねいなものづくり」という理念を裏打ちするもの。調理工程を見ていても、西山さんが鍋から片時も目を離さず、食材をいとおしむように扱う様子はとても印象的でした。

 
左上:スパイシージンジャーシロップを使ったジンジャービア。シークワーサーをちょっと搾ってグラスに入れ、そこにシロップをお好みの量プラス。上からビールを注ぎます。爽やかでゴクゴク飲めるカクテルです。右上、左下:ハワイアングロットの店内。シロップをはじめ、オリジナルのTシャツや器など、たくさんの商品があって目移りしてしまいます。看板猫のデコちゃんにも会えるかも? 右下:バナナパンケーキにシロップをかけて。バナナ、生クリーム、アイスクリームの甘さの三重奏を、シロップの辛みがピリリと引き締めます。


みそ汁やカレーにひと垂らし、おすすめです。


そうやって完成したおいしいシロップ。さて、どんな利用法が考えられるでしょうか。

「スパイシージンジャーシロップは、ドリンクとしてはスティルまたは炭酸の水やお湯で割るほか、牛乳や豆乳で割るとチャイのような風味が楽しめます。ハーブティや紅茶、コーヒーに加える甘みとしてもおすすめです。お酒好きな方なら、ビールで割ってジンジャービアにしたり、ハイボールやモヒートのアクセントに。好みの赤ワインを温めてシロップを加えれば、おいしいホットワインができます」と加藤さん。 

では、お料理に使うなら?

「甘いものがお好きならばパンケーキやアイスクリーム、ヨーグルト、トーストにかけてみてください。それから、ぜひお試しいただきたいのが、みそ汁やカレーにひと垂らしすること。いい隠し味になります。肉じゃがや豚の生姜焼きにプラスしてもいいし、醤油と合わせて肉や刺身のタレにするのもいいですよ」

 
左:ジンジャーシロップの水割りは、気持ちもリフレッシュしてくれる一杯。右:加藤さんが2019年にパリで行われた日本の食の販路開拓事業に参加した際の一枚。「ジンジャーシロップは、海外の方にはエキゾティックと感じていただけるのではないかと思いました。プロのシェフにもおいしいと言っていただけて、自信になりました」


「ヌチグスイ(命の薬)」、という考え方。


シロップのおいしさには、沖縄、石垣島といった土地の魅力も大いに関係がある気がします。「沖縄、八重山の島々は台風の通り道となるので、気候に厳しさがあります。そこが、島で育つ食材に、パワフルさをもたらす気がしますね。そして、昔から言い継がれてきた『ヌチグスイ(命の薬)』という考え方があります。簡単に言えば医食同源、ということ。この厳しい暑さや環境を乗り越えて健康を育んできた先人たちの知恵が詰まった食材や調理法を大事にし、自分が作るものも、そこにのっとったものでありたいと思います」

実際、このシロップを手がけるようになって、加藤さんの体にも変化があったそう。「シロップを作りながら自分も味わっているうちに、末端冷え症だったんですが、それが収まりました。風邪ももうずっとひいていません」

安心、安全、ていねいに――そんな“てまひま”をかけて、今日もシロップを作る加藤さん。最後に、伺いました。加藤さんにとって、ジンジャーシロップとはどんな存在ですか?

「疲れを吹き飛ばし、明日への活力をくれるもの。ほっと癒やしてくれるもの。私にとって、ジンジャーシロップは“元気のもと”です」


●ハワイアングロット https://www.ishigaki-ginger.com

動画/細沼孝之 音声/林 健太 写真・文/てまひまオンライン