和食遺産VOL.16/ほうとう(山梨県)

各地の気候風土とそこで穫れる食材とを礎に育まれてきた日本の郷土料理。連載「未来に伝えたい、ニッポン和食遺産」では、先人たちの知恵と想いが込められた47都道府県の逸品を「ニッポン和食遺産」と名付け、人気の郷土料理店のレシピとともにご紹介します。連載第16回目は山梨県の「ほうとう」です。

小麦中心の食文化が育まれた、山梨県を代表する郷土料理の「ほうとう」。その発祥には諸説ありますが、戦国時代に武田信玄が貴重なお米に代わる陣中食として用いたことから、甲州地方に広く根付いたとされています。幅広の平打ち麺に、かぼちゃを中心に根菜やきのこ類を加え、味噌仕立ての汁で煮込んだ「ほうとう」は、山の味覚がぎっしりつまって栄養バランスも満点。麺の生地を寝かすことなくすぐに切って煮込むので、汁にとろみがついて冷めにくく、食すと身体がぽかぽかに温まります。山地の厳しい冬の寒さをしのぐために考案された、先人たちの知恵がつまった料理といえるでしょう。

煮崩れした麺に味噌がからみ、そこに野菜の甘みが加わった味わいが「ほうとう」の醍醐味ですが、おいしく作る秘訣は味のアクセントになるかぼちゃの選び方だそう。北海道産のえぞくりかぼちゃなど甘みがあってホクホクした食感の栗かぼちゃを、他の具材と一緒に煮るのではなく、かぼちゃのみを加熱して最後に添えることで、汁本来の味を損なうことなくおいしくいただけるのだとか。また、味の決め手となる味噌は、特に決まりはないので自分好みの味を追求したいものです。さらにお酒と一緒にいただくなら、なんといっても山梨県産のワイン一択でしょう(甲州、あじろん、マスカット・ベーリーAを推奨)。ワインの一升瓶を用意して鍋を囲むという地元の食べ方に倣って、そのほっこりするやさしい味わいを最後の一滴までお楽しみ下さい。

材料(3人分)

かぼちゃ6切れ 里芋3個 人参本 ゴボウ1本 白菜3枚 小松菜2株 きのこ類適量 水2ℓ 煮干しの粉 大さじ3 ほうとう(生麺)3人前 信州味噌150g ほんだし適量

作り方
①かぼちゃを皮をむいてひと口大に切り、ラップをかけて電子レンジ(600W)で3分程加熱して柔らかくしておきます。里芋、人参は皮をむいて乱切りに、ゴボウは洗って泥を落としたらささがききにして水に浸します。白菜と小松菜は2㎝幅のざく切りに、きのこ類は手でほぐして準備しておきます。
②大きめの鍋に水を入れて湯を沸かし、煮干しの粉を入れ、里芋、人参、ゴボウを入れて中火で2~3分煮ます。
③❷に、ほうとうを入れて、さらに2~3分煮ます。
④根菜が柔らかくなるまで煮たら、弱火にして味噌とほんだしを加えます。
⑤❹に、白菜、小松菜、きのこ類、かぼちゃを入れて、ひと煮立ちしたら完成です。お好みでお肉を加えるのもいいですし、ジャガイモなど他の野菜を加えてもおいしくいただけます。

教えてくれたのは…

ほうとう処 慶千庵

甲州市勝沼町にある、自家製手作り味噌が自慢のほうとうの専門店。店主自ら冬の寒い時期に仕込む“寒仕込み”の味噌は、化学調味料や添加物を使わず、てまひまかけてじっくり熟成。麹の風味が感じられる滋味深いスープが、もっちりした麺とよくからんで後を引くおいしさです。評判のほうとうは「かぼちゃ」と「肉」の2種類。いずれも野菜をたっぷり使って、ボリューム満点。ブドウ狩りやワイナリー巡りの際に訪れたい一軒です。

●山梨県甲州市勝沼町勝沼2893 TEL:0553-44-1110 www.facebook.com/houtouya

山梨県の食データ山地によって隔てられる地域間差が大きい山梨県。八ヶ岳など山麓地域は冷涼である一方で、甲府盆地は1年を通して寒暖の差が激しく、夏は日本でも1、2を争う高温になり、冬は寒いことで有名です。農産物は、盆地周縁でブドウや桃など果物の栽培が盛ん。特にブドウはワインの醸造も行われており、日本固有の品種“甲州”は、世界的に注目を集める存在です。「ほうとう」以外の郷土料理には、「富士吉田うどん」「おざら」「甲府鳥もつ煮」などが全国的に知られています。


取材・文/有元えり 写真提供/ほうとう処 慶千庵