和食遺産VOL.14/けんちん汁(神奈川県)

各地の気候風土とそこで穫れる食材とを礎に育まれてきた日本の郷土料理。連載「未来に伝えたい、ニッポン和食遺産」では、先人たちの知恵と想いが込められた47都道府県の逸品を「ニッポン和食遺産」と名付け、人気の郷土料理店のレシピとともにご紹介します。連載第14回目は神奈川県の「けんちん汁」です。

鎌倉市に伝わるすまし汁の「けんちん汁」は、北鎌倉の禅宗・建長寺が発祥と伝えられていますが、「建長寺の汁」がなまって「けんちん汁」と呼ばれるようになったという一説があります。700年以上にわたり代々受け継がれてきた味は精進料理のため、植物性の食材のみが使用されます。その昔、小僧さんが誤って落としたことで崩れてしまった豆腐をそのまま使ったといういわれにならい、現在でも豆腐を崩して入れるのが決まりごとです。大根、里芋、人参、ゴボウなどの根菜を胡麻油で炒め、干し椎茸と昆布でとった出汁で煮込む「けんちん汁」は、神奈川県だけでなく、いまでは日本各地で親しまれている存在です。それもそのはず、全国から集まった修行僧がこの味を故郷に持ち帰り、その土地に合ったアレンジが加えられながら、広く浸透していったと考えられています。

 そして今回教えていただいた「けんちん汁」は、元祖というべき建長寺の老師直伝の伝統の味です。野菜にしっかりしみ込んだ胡麻油の芳ばしい香りがお椀いっぱいに広がり、心も身体もじんわり温まります。時を超えていまも人々を魅了する滋味深い味わいを、家庭でもぜひ再現してみてください。 

材料(4人分)

干し椎茸個 昆布㎝ 水1ℓ 大根1/4本 蓮根(小)1個 里芋(小)3個 人参1/3本 大根の葉少量 ゴボウ1/4本 こんにゃく1/2袋分 焙煎胡麻油24g 薄口醤油20g 塩7g 木綿豆腐1/2丁

作り方
①干し椎茸と昆布を水につけて、ひと晩置いておきます。椎茸が戻ったらスライスします。
②大根は皮付きのまま銀杏切りに、蓮根と里芋は皮をむいて銀杏切りに、人参は皮付きのままささがきに、大根の葉はゆでて小口切りにし、ゴボウは洗って泥を落としたらささがきにして水にさらしておきます。
③こんにゃくを麺棒で叩いてから、手でちぎり(または裏返したお茶碗で削ぎ切りに)、5分程ゆでてアク抜きをします。
④鍋に胡麻油を入れて中火にかけ、大根、蓮根、里芋、こんにゃくを炒めます。香り立つまで油がしっかり回ったら、人参、ゴボウを加えて軽く炒め合わせます。
⑤❹に❶と薄口醤油、塩を加えて、沸騰直前に昆布を取り出します。アクを取りながら10分程、弱火で煮込んだところで、手で崩しておいた木綿豆腐を加えます。
⑥お椀に盛って、大根の葉を添えたら完成です。

教えてくれたのは…

点心庵

北鎌倉の建長寺の門前に店を構え、“茶禅一味”を提唱するこちらは、「鎌倉に、少しだけ触れて頂く」をコンセプトに、禅の心を味わえるつくりになっています。お料理は主に鎌倉産の食材を使用。建長寺の老師に直接調理法を指導してもらったという看板料理の「けんちん汁」は、建長寺に味を定期的にチェックしてもらっており、古からの味を忠実に伝えています。他にも、建長寺の境内で採蜜した“鎌倉はちみつ”を使う「鎌倉はちみつプリン」や「湘南野菜の鎌倉はちみつカレー」も、ここでしか味わえない人気のメニューです。

●神奈川県鎌倉市山ノ内7 TEL:0467-55-9350 http://tenshin-an.com

神奈川県の食データ県の大半が温暖な太平洋側気候に位置する神奈川。大消費地に近接する地の利を生かして、キャベツ、三浦大根などの野菜の生産が盛んですが、ミネラルたっぷりの肥沃な土壌で育つ鎌倉野菜は味が濃厚で、有名レストランでも取り扱われるほど注目を集める存在です。その他にも相模湾で獲れる湘南しらす、干物、蒲鉾、全国2位の水揚げを誇る三浦漁港のマグロなど、魅力ある食材が豊富に揃います。地元の名物グルメでは、藤沢の生しらす丼、相模原のかんこ焼、横浜のサンマーメン、平塚のタンメンなどが人気です。


取材・文/有元えり 写真提供/点心庵