知恵袋VOL.12/意外と知らない「アスパラガス」の話 おいしいのは彼? それとも彼女?

日々、口にしている食材にまつわる「おいしい話」「耳よりな話」を目ききに教わる「食の目ききの知恵袋」。今回は「アスパラガス」について、意外と知られていない特徴や見分け方のコツを、築地の青果卸売会社で活躍する「野菜の目きき」に教えていただきました。

 

【今回の目きき】田子真俊さん
青果をはじめとする生鮮食品の卸売りを行う株式会社「メトロファーム」の営業部長。かつては自ら農業を行っていた経歴を持つ。現在は、野菜のことを知り尽くした仕入れ担当として、定番だけでなく目新しい野菜も積極的に取り扱うことを心がけている。 https://metrofarm.jp

春になると畑からニョキニョキと姿を現す緑の穂先……それが「アスパラガス」です。野菜としては少し変わった形状をしていますが、実は見た目以外にも、他の野菜とは違った特徴を持っています。

 

海の向こうからもやってくるアスパラガス

アスパラガスの旬(いちばん多く出回る時期)は5月から6月にかけて。私たちが野菜として食べているのはアスパラガスの若芽と茎にあたる部分ですので、まさに空気が温かくなって、植物が元気に育ってくる時季に旬を迎えます。九州の佐賀県や長崎県で育てられたアスパラガスは、それよりも早く、3月の終わり頃から出回り始めます。

でも、実際には一年中スーパーでアスパラガスを見かけますよね? 実は、あれは輸入のアスパラガスなのです。秋口あたりから国産のアスパラガスはほとんど出回らなくなり、代わりに、オーストラリア産のアスパラガスが主流になります。その後、冬になると、今度ははるばるメキシコからやってきたアスパラガスが日本の食卓に並ぶのです。

アスパラガスのような生鮮野菜がそんなに輸入されているということをご存じない方にとっては、ちょっと驚きの事実かもしれません。もちろん、海外から輸入される野菜は他にもいろいろありますが、アスパラガスくらいメジャーどころの野菜で、しかも一年の半分は輸入物がメインに流通しているというのは、たしかに珍しいと言えるでしょう。

そこまでして私たち日本人はアスパラガスを食べたいのか⁉ わざわざ地球の反対側から持ってこなくても、アスパラガスは春夏だけのお楽しみということにしてもいいのに……と思う方もいるかもしれません。ただ、ちょっと思い出してみてください。ファミリーレストランなどでハンバーグやステーキを注文したとき、その隣には、いつもアスパラガスがいませんか?

きれいな緑色の見た目に加えて、カットして火を通すだけで十分においしく調理できるアスパラガスは、飲食店にとってかなり使い勝手のいい野菜なのです。そのため、国内では収穫できない秋冬になってからも需要が減らず、供給の穴を埋めるために、遠くメキシコやオーストラリアから取り寄せることになったのだと思われます。

 

収穫まで時間がかかるうえに栽培も難しい

アスパラガスはさほど味の違いがないため、国産物でも輸入物でもほとんど差は感じられないでしょう。ただ、そうは言っても、何千何万キロもの長旅をしてきたアスパラガスと、車で1〜2時間のところで収穫されたアスパラガスとでは、鮮度の差は言うまでもありませんし、国産のほうがよりしっかりとした野菜の味を感じられるはずです。

国内の主な産地としては、佐賀・長崎の他に、栃木県や北海道のアスパラガスも有名です。各地でいろいろな品種が栽培されていますが、先ほども言ったようにあまり味の違いが出ない野菜のため、私たち青果卸の間でもアスパラガスはアスパラガスとして扱うことが大半です。

それでも最近は、香川県の「さぬきのめざめ」のように独自の品種を売り出すところも増えています。このアスパラガスの最大の特徴は、そのサイズ。大体30センチほどの長さがあり、なかには50センチにもなるものもあります。それなのに柔らかく、甘みがあってジューシーということで、少しずつ注目され始めています。

日本の農家の方々は常に品種改良の努力を惜しみませんので、今後どんなアスパラガスが登場するか楽しみなのですが、実は、アスパラガスはもともと育てるのが難しい野菜でもあります。

種を蒔いてから収穫できるようになるまでに2年はかかりますし、ハウス栽培でしっかりと温度管理をしたとしても、季節を問わず収穫することは難しいようです。こうした特性も、これほど栽培技術が発達した現代になってもなお、時季によって国産のアスパラガスが出回らなくなる要因のひとつなのです。

 

アスパラガスには「オス」と「メス」がある

もうひとつ、アスパラガスの面白い特徴は「雌雄異株」であるという点でしょう。つまり、オスとメスがいるのです。

スーパーなどでアスパラガスを選ぶとき、穂先の部分がキュッと締まったものと、やや穂先が開いて中の芽の部分が見えているものがあることに気づいたことがあるでしょうか? ひょっとすると、鮮度や状態の違いでそうなっているのだと思っていた方もいらっしゃるかもしれませんが、あれこそオスとメスの違いです。

穂先が開いているほうがオスで、芽を隠し持っているようにしているほうがメス。

正直なところ、味の違いはさほどないと思うのですが、やはりメスのほうが柔らかい傾向にあります。そのため、アスパラガスは穂先が締まっているものを選ぶほうがいい、とよく言われるのは、たしかに柔らかいものを求めている場合には正解です。でも、もっと歯ごたえを楽しみたい場合には、オスのほうを選ぶといいでしょう。

鮮度を見極める際には、茎の根元をチェック。収穫から時間が経っているアスパラガスは、根元が茶色く固くなっています。ただ、その部分さえカットすれば、他は十分に柔らかいこともあります。メジャー野菜でありながら、あまり料理の主役になることが少ないアスパラガスですが、扱いや調理が簡単なことは、ご家庭で楽しむには大きなメリットではないでしょうか。

アスパラガスには、その名前を受け継いだ「アスパラギン酸」というアミノ酸が多く含まれています。疲労回復によく効くとされていますので、これから夏にかけて、期間限定の贅沢として、ぜひ国産アスパラガスをお楽しみください。

文・構成/ドイエツコ