おいしい本 Vol.15/ 高橋博之 著『だから、ぼくは農家をスターにする「食べる通信」の挑戦』

「おいしい本、いただきます。」は、食にまつわるさまざまなウンチクや名場面がいっぱいの、眺めておいしい、読んでおいしい本を紹介する連載です。15回目に取り上げるのは高橋博之による『だから、ぼくは農家をスターにする「食べる通信」の挑戦』。

東日本大震災から10年、
改めて作り手と食べ手の

関係を考えたい。

だから、ぼくは農家をスターにする「食べる通信」の挑戦』高橋博之 著 CCCメディアハウス 刊 

この本は、食べもの付き情報誌「東北食べる通信」の初代編集長の高橋博之さんの半生記であり、食を通じた世直しの提言の書でもあります。「消費社会が失ってしまった“生きる実感”や“つながり”は、誰にとっても身近なを通じて取り戻すことができる」と高橋さんは力強く語ります。

東日本大震災をきっかけに、「人々の絆やつながり」が注目されたのを覚えていますか? 都市に暮らしていると、今食べているものは誰が作り、どこから来ているのか意識しづらく、都市と地方の分断は食の世界でも顕著でした。

震災後、一次産業の復興に携わりたいとの思いを持っていた高橋さんが出会ったのは、大津波で牡蠣の養殖イカダを流され、その後少数から生産を再開していた岩手の漁師。東京では1個数百円で売られている牡蠣が、売れても赤字の1個30円で投げ売りされていた現状に、高橋さんはなんとかせねばと立ち上がります。フェイスブックやチラシで、漁師が置かれた状況を伝えるだけでなく、どんな思いで生産再開をしたかを綴ることで、1個100円でもバンバンと牡蠣が売れたのだそう。

そこで高橋さんは気づきます。食べものの裏側を知ることで、食べ手は作り手への感謝を感じるようになる。それはどんな一流の料理人でもできない味付けになるのだと。そこから作り手の思いを伝える媒体を作ろうと動き出すのに時間はかかりませんでした。

その顛末は本書に譲るとして、2013年に生まれた「食べる通信」は全国各地域へと広がり、その後2016年にはポケットマルシェ(通称・ポケマル)という生産者から直接食材を変えるサービスへとつながっています。つながりはより強固に、アメーバ状に広がっているのだなと感じます。

つくる人、食べる人それぞれが幸せになる社会へ。東日本大震災から10年がたった今、もう一度考えてみたいテーマです。

 文・写真/吉野江里