知恵袋 VOL.6「ねぎ」

日々、口にしている食材にまつわる「おいしい話」「耳よりな話」を目ききに教わる「食の目ききの知恵袋」。今回は、とても身近な存在なのに人によって好みが大きく分かれる「ねぎ」について、品種ごとの特徴や鮮度の見分け方を、築地の青果卸売会社で活躍する目ききに教えていただきました。
 

【今回の目きき】田子真俊さん
青果をはじめとする生鮮食品の卸売りを行う株式会社「メトロファーム」の営業部長。かつては自ら農業を行っていた経歴を持つ。現在は、野菜のことを知り尽くした仕入れ担当として、定番だけでなく目新しい野菜も積極的に取り扱うことを心がけている。 https://metrofarm.jp

ねぎと言えば、日本食にはなくてはならない「名脇役」。豆腐に載せたり、納豆と混ぜたり、味噌汁に散らしたりするほか、そば・うどんの薬味としても欠かせないですし、冬には鍋物という大舞台で重要な役割を果たします。

 あまりにも身近な存在なので気にも留めていないかもしれませんが、もしねぎがなかったら……と考えると、実に多くの料理が味気ないものになってしまいそうです。また、常備菜ゆえにいつも同じものを買っているかもしれませんが、実は種類によって味わいが異なるので、いろいろと試してみていただくのも面白いと思います。

 

冬の長ねぎと言えば「下仁田ねぎ」

ねぎについてよく論争になるのが、「ねぎは白いか? それとも青いのか?」という問題です。

昔から、東日本では「長ねぎ」の根に近い白い部分を食べてきたのに対して、西日本では「青ねぎ」の緑の葉っぱ部分が食べられてきました。現在ではどちらも全国的に流通していますが、それでも生まれ育った環境の影響というのは大きくて、「大人になって東京に出てきて初めて『長ねぎ』を見た」「どうも『青ねぎ』は苦手……」という方もいらっしゃるようです。

ところで、いま「長ねぎ」と書きましたが、主に白い部分を食べるねぎは、種類としては「根深ねぎ」と言い、その名のとおり、根を地中深くに植えることで白い部分を長く立派に育てています。この白い部分を指して「白ねぎ」とも呼ばれますが、要は、どれも同じ。「根深ねぎ」の通称が、「長ねぎ」や「白ねぎ」ということになります(ここではより一般的な「長ねぎ」とします)。

そんな「長ねぎ」は、生のときは独特の辛みがありますが、火を通すと甘みが増してきて、トロッとした食感になる点が特徴です。そのため、鍋ものに加わる際には、いつものチョイ役(薬味)から一転、助演クラスに格上げされることもあります。実際、11月頃から2月頃にかけての冬の時季が「長ねぎ」の旬ですので、いちばんおいしい時季に、おいしい役どころで活躍していると言えますね。

「長ねぎ」の中でも、特にすき焼きのお供として近年すっかり定番になったのが「下仁田ねぎ」です。群馬県下仁田町とその周辺でのみ栽培されているブランドねぎで、とにかく太いのが特徴。また、辛みがとても強くて生では食べられないため、薬味ではなく、しっかりとした野菜としての存在感があります。まさに冬が旬で、「下仁田を食べないと冬が来ない!」という方もいらっしゃるほど。

 

西の代表は「九条ねぎ」「万能ねぎ」

対する「青ねぎ」(種類としては「葉ねぎ」となります)の代表選手は、京の伝統野菜として知られる「九条ねぎ」です。京都市や京丹後市などで栽培されていて、やや幅が広いものと細いものの2種類があります。ほぼ1年じゅう流通していますが、冬にはやや甘みがあるのに対して、夏はピリッと強めの辛みを感じられるのが特徴。それが、京料理のダシとよく合うのです。

ちなみに、葉の部分はまず食べない「長ねぎ」と違って、「九条ねぎ」をはじめとする「青ねぎ」では白い部分も普通に食べます。湯豆腐には青い部分、納豆には白い部分といった具合で使い分けられるのは、意外と便利かもしれません。

このほかによく知られているものとして「万能ねぎ」がありますが、実は、これも福岡県朝倉市で栽培されているブランドねぎ。「生でよし、煮てよし、薬味によし」ということで名付けられたそうで、「青ねぎ」よりも細くスラッとしていて、白い部分がほとんどありません。一般的な呼び名としては「小ねぎ」という名称が使われます。

これら「長ねぎ」「下仁田ねぎ」「九条ねぎ(青ねぎ)」「万能ねぎ(小ねぎ)」が4大ねぎと呼ばれていて、日々、みなさんの食卓を彩っているはずです。

 

違いを知って、ぜひうまく使い分けを

日本の食卓の「影の立役者」とも言うべきねぎですが、なくてはならない存在だからこそ、「いつも冷蔵庫に常備してある……気づくと干からびているけど」という声もよく聞きます。薬味として少しずつ使うことが多いために、どうしても使い切るまでに時間がかかってしまうのでしょう。

ねぎは温度の乱高下が苦手なので、冷蔵庫から出したり入れたりを繰り返すよりも、常温で保存したほうが良い状態で長持ちします。また、「長ねぎ」であれば白い部分に光沢があって、胴体がしっかりとしているもの、「青ねぎ」は葉っぱの先が傷んでいなくて、青々としているものを選ぶといいでしょう。どちらの場合も、根元の切り口のところに段差ができている(内側が飛び出している)ものは、収穫から日が経って伸びてきた証拠なので、チェックするようにしてください。

ねぎ全体としては1年じゅう収穫されているわけですが、もともと夏のねぎ(主に「青ねぎ」)は暑さに強く、冬のねぎ(多くは「長ねぎ」)は寒さに強いという特性があります。また、冬の「下仁田ねぎ」と夏の「九条ねぎ」のように、冬は甘みが強く、夏は辛みが強いのが特徴です。せっかく種類豊富に出回っていますので、ぜひとも料理や食べ方に合わせてうまく使い分けていただきたいと思います。

私自身、普段は「長ねぎ派」なのですが、「そばやうどんにはやっぱり『青ねぎ』だよな〜」とつくづく感じるのです。

文・構成/ドイエツコ