知恵袋VOL.17/ビールのお供に最高の「枝豆」がもっとおいしくなる話

日々、口にしている食材にまつわる「おいしい話」「耳よりな話」を目ききに教わる「食の目ききの知恵袋」。今回は、夏こそ食べたい「枝豆」について、知っているようで知らない話を、築地の青果卸売会社で活躍する「野菜の目きき」に教えていただきました。

 

【今回の目きき】田子真俊さん
青果をはじめとする生鮮食品の卸売りを行う株式会社「メトロファーム」の営業部長。かつては自ら農業を行っていた経歴を持つ。現在は、野菜のことを知り尽くした仕入れ担当として、定番だけでなく目新しい野菜も積極的に取り扱うことを心がけている。 https://metrofarm.jp

トマトやナス、オクラなどが旬を迎える夏は、野菜がおいしい季節です。「枝豆」も、そんな夏野菜のひとつ。最近は冷凍ものも広く普及して一年じゅう食べられるようにはなりましたが、それでも、暑い夏に冷えたビールと一緒に楽しむ枝豆の味は格別です。最近では品種改良が進み、さまざまなブランド枝豆も登場しています。

 

枝豆は大豆。大豆は枝豆。

最初に、おさらいをしておきましょう。「枝豆」は、植物としては「大豆」と同じものです。納豆や豆腐の原材料となる、いわゆる普通の大豆は、ダイズという植物の種を食べるわけですが、この種が完熟しきらないうちに食べるのが枝豆です。言い換えると、未完熟の緑色のときに収穫せずそのまま生育させれば、枝豆はいずれ大豆になります。

枝豆が大豆だということは、知識としては何となく知っている方も多いでしょうが、同じ植物の同じ部位でありながら、ただ収穫時期が違うだけで別の野菜になってしまうというのは、よく考えると非常に珍しいものです。

実際、私たちのように野菜を扱う業者も、枝豆と大豆は当然ながら別物として扱いますし、青果市場における扱いも異なります。いま「野菜」と書きましたが、そもそも大豆は「穀物」であって野菜ではありません。それに対して、枝豆はれっきとした「野菜(青果)」。食品としても、大豆は「豆類」に分類されますが、枝豆ならば「緑黄色野菜」になります。

大豆は、日本では縄文時代から栽培されていたとも言われていますが、枝豆のほうも、奈良・平安の時代にはすでに食べられていたそうです。大豆がまだ緑色の段階で食べてみようと思った最初の人が誰かはわかりませんが、その人のおかげで、現代の私たちはビールの最高のお供を手に入れたわけです。

 

「枝付き」のほうがおいしい理由

枝豆と大豆は同じ植物ではありますが、現在ではもちろん、枝豆にするものと大豆にするものと別々の品種が存在していて、それぞれに合わせて栽培されています。それでも基本的には同じ植物ですので、自宅の畑などで枝豆を育てている人から、「食べきれなかった枝豆が気づいたら大豆になっていた」なんていう話を聞くこともあります。

枝豆としての旬は、6月後半あたりから9月にかけて。そこを過ぎて気温が下がってくると、どんどん成熟が進んで大豆になります。ただ、最近では全国各地で栽培されていますので、たとえば沖縄では11月や12月になってからも枝豆が穫れます。それに冷凍ものが加わるので、結局のところ、一年じゅう枝豆を食べられない日はないわけです。

その一方で、枝豆は鮮度が重要な野菜です。収穫後に風味が落ちていくのが早いため、実際にはあまり遠方まで出荷されるようなことはなく、だからこそ冷凍に向いていると言うこともできるのでしょう。

枝豆の鮮度はサヤのあたりで見分けることができます。少しでも茶色くなっていれば、劣化が進んでいる証し。全体がきれいな緑色なら、まだまだ新鮮な枝豆です。そして、鮮度を保つ役割を果たしてくれるのが、枝。「枝付き枝豆」を見かけることがあると思いますが、あの枝は見栄えのためのものではなく、枝から外さないでおくことで枝豆の劣化を防いでいるのです。

 

茶豆、だだちゃ豆、丹波黒も。

居酒屋のメニューに「枝豆」があれば必ず注文する!という方も多いでしょうが、最近は「茶豆」「だだちゃ豆」といった名前を見かけることも多くなりました。それらを頼んで出てくるのは、もちろん枝豆です。

枝豆は、内側の薄皮の色によって「白豆(白毛豆)」「青豆」「黒豆」といった区別がされるのですが、そのひとつが「茶豆」で、その名のとおり薄皮が茶色がかっています。主に新潟や東北地方で生産されるため、通常の枝豆(これが「白毛豆」や「青豆」)よりも旬がやや遅く、香りが良くて甘味が強めといった特徴があります。

「だだちゃ豆」は、山形県鶴岡市でのみ栽培されている特産の茶豆です。古くからの在来品種を地元農家の人たちが大切に守ってきたもので、トウモロコシのような香りと甘味が人気となって、ブランド枝豆として広く知られるようになりました。ちなみに、名前の由来はさまざまあるようですが、いずれにしても「だだ茶豆」ではないのだそうです。

そして、意外と知られていないのですが、「黒豆(黒大豆)」にも枝豆があります。高級黒大豆として知られる兵庫の「丹波黒」でも完熟する前の枝豆で食べることがありますし、枝豆用に改良された黒豆もあります。黒豆らしく大粒で甘味が強いのが特徴ですが、まだそれほど多く作られていないため、あまり出回ることはないようです。

 

枝豆だって茹でるだけじゃない!

他の野菜の例に漏れず、枝豆の品種改良もどんどん進んでいます。ブランド枝豆と呼ばれる品種も出てきていますので、今後は居酒屋の枝豆メニューもさらに豊富になるかもしれません。

ただ、枝豆の食べ方としては「茹でるだけ」という場合が大半でしょう。実際のところ、その食べ方が枝豆の風味を最もしっかりと味わうことができるので、最良の食べ方ではあるのかもしれません。それでも、家庭でも簡単に冷凍できますので、それらをうまく活用して、いろいろな料理の中に加える食材としても枝豆を楽しんでいただければと思います。

とはいえ、やっぱり旬のうちはシンプルな調理法で食べるのがいちばんでしょう。茹でる以外には、軽く水を吸わせた後に両面を焼いて食べる「焼き枝豆」も、枝豆の風味に香ばしさが加わるのでおすすめです。

また、もし「枝付き」を入手できた場合には、茹でるにせよ焼くにせよ、枝付きのまま調理してみてください。ビール片手に、ひと粒ずつサヤから取り出しながら枝豆をつまむというのも、乙なものです。オリンピック・パラリンピック観戦のお供に、ぜひ。

文・構成/ドイエツコ