知恵袋VOL.13「トマト」

日々、口にしている食材にまつわる「おいしい話」「耳よりな話」を目ききに教わる「食の目ききの知恵袋」。今回は野菜界のスターとも言える「トマト」について、意外と知られていない特徴や見分け方のコツを、築地の青果卸売会社で活躍する「野菜の目きき」に教えていただきました。

 

【今回の目きき】田子真俊さん
青果をはじめとする生鮮食品の卸売りを行う株式会社「メトロファーム」の営業部長。かつては自ら農業を行っていた経歴を持つ。現在は、野菜のことを知り尽くした仕入れ担当として、定番だけでなく目新しい野菜も積極的に取り扱うことを心がけている。 https://metrofarm.jp

真っ赤に熟れた「トマト」は野菜の花形と言ってもいい存在。店先にトマトがなければ八百屋も始まりません。南米原産のトマトがここまで日本で定着したのは、味や見た目の良さ、調理のしやすさといった点も当然あるでしょうが、「改良好き」な日本人にぴったりの野菜という理由もあるのかもしれません。

 

「真っ赤・甘い・中玉」が人気な理由

一年を通して出回っているトマトですが、本来の旬は初夏から9月中旬にかけて。ほとんどがハウスで栽培されたものですが、7月になると露地栽培のトマトも出てきます。どちらの場合も、気温が上がってくるにつれてトマト特有の香りが強くなってきますので、昔ながらのトマトらしいトマトをお求めの方は、ぜひこの時季に楽しんでいただければと思います。 

その一方で、最近の傾向としては「真っ赤で甘い」というのがトマトのトレンドになっています。昔はトマト嫌いの子どもも多かったように思いますが、今の甘いトマトなら子どもたちも喜んで食べてくれるのではないでしょうか。もちろん大人にも、より食べやすいほうが選ばれることから、甘みを追求したトマトの開発がどんどん進んでいます。

真っ赤な色はそれだけで食欲をそそりますし、赤い色素は「リコピン」という成分ですので、そうしたことからも、やはりより赤いトマトを選びたくなるものですよね。 

また、昔ながらの大玉トマトとミニトマトの中間にあたる、「中玉(ミディサイズ)」のトマトも近年の人気です。これは、トマトは事前にカットして下ごしらえをしておくことができないため、飲食店などでは大玉よりも中玉のほうが扱いやすいという理由のほかに、中玉ならお弁当などにも使いやすいといった理由もあるようです。

 

「水断ち」も受け入れるトマトの強さ

日本の食卓に欠かせない野菜になったトマトですが、実のところ、トマトは特に品種改良がさかんに行われている野菜のひとつで、主な品種だけでも100種類ほどあります。地元でだけ消費されているようなレアな品種も含めると、もっと多くの品種があるでしょう。それほど改良が進んでいる背景には、トマトの植物としての強さがあります。

野菜の中には、今なお栽培が難しいものや(前回の「アスパラガス」がそうです)、なかなか品種改良がうまくいかない野菜もあります。しかしトマトは、一般の方の家庭菜園やベランダ菜園でも真っ先に植えられることからもわかるように、まずは栽培が簡単。そのうえ、環境の変化に耐えられる強さがあるので、農家のみなさんも改良意欲をかき立てられるのか、どんどん改良が進んでいます。

なかでも有名なのは、1985年に登場した「桃太郎トマト」でしょう。それまでは流通過程を考慮すると、どうしても完熟前の青いトマトを収穫しなければいけなかったのですが、品種改良によって、完熟させてから収穫できるようにしたのが「桃太郎トマト」です。いわゆる「完熟トマト」の先駆けとして、「真っ赤で甘い」のトレンドを作りました。

最近では、トマトをより「いじめ抜く」ことで糖度を上げる栽培方法も行われています。葉が少し枯れるくらいまで水をあげないでおくと、トマトの木は成長を抑えて、ひとつひとつの実により多くの養分を送り込むことになるため、味が濃くて甘いトマトになるのです。少々かわいそうにも思えますが、めげずにしっかりと育つ強さがトマトにはあります。

品種改良によって赤くないトマトも増えています。紫色や黄色のトマト、きれいな緑色のトマトまで。これらは、もともとこういう色をした品種に改良を加えることで味を良くしていき、赤いトマトと同じように食べられるところまでになったトマトたちです。オレンジ色の「桃太郎ゴールド」も誕生していますので、もし見かけたら試してみてください。

 

トマト選びは「お尻」に注目

トマトの主な産地としては、私が出入りする豊洲市場では、やはり首都圏の主要な野菜産地である千葉や茨城、それに栃木のトマトが多く見られます。そんな中で存在感を放っているのが、熊本のトマト。実は生産量が日本一で、日本のトマトのうち約5個に1個が熊本産なのだそうです。

おいしいトマトを見分けるポイントは、お尻からきれいな放射線状のスジが伸びていること。「お尻」とは言うものの、売られているトマトの大半はヘタ側を下にして、お尻を上に向けて置かれているはずです。つまり、もはやこちら側がトマトの「顔」と言ってもいいでしょう。しっかりと顔を見て、いい顔つきのものを選んでください。

なお、トマトは保存状態によって味が大きく変わってしまうという特性があるため、買ってきたトマトは冷蔵庫に入れたほうがいいでしょう。葉もの野菜と違ってある程度は長持ちするのですが、特に温度変化が繰り返されることに弱いので、なるべく冷蔵庫からの出し入れはしないように気をつけてください。

トマトは生でもおいしく、加熱すればいろいろな料理に使うこともできる、野菜界のマルチプレーヤーです。よりよいトマトを目指して日々工夫を重ねる農家のみなさんのおかげで、今後も面白い品種がどんどん出てくるでしょう。栽培の楽しみも料理の幅も広げてくれるトマトは、これからも日本の食卓を彩ってくれそうです。


「赤いトマト」はもう古い? よりカラフルになったトマトたち

文・構成/ドイエツコ