知恵袋VOL.11/あなたはまだ本当の「エビ」を知らない……かもしれない

日々、口にしている食べものにまつわる「おいしい話」「耳よりな話」を目ききに教わる「食の目ききの知恵袋」。今回は、みんな大好きな「エビ」について、豊洲市場で活躍する「エビの目きき」に教えていただきました。あなたは「日本のエビ」を食べたことがありますか?

 

【今回の目きき】藤村欣司さん
豊洲市場でエビ・マグロを中心に扱う水産仲卸「佃熊(つくくま)」で、生および活きのエビを一手に引き受ける「エビのプロ」。かつてはインテリアデザイナーを目指していたが、学生時代にアルバイトをした経験から「向いている気がして」転身。以来21年にわたってエビ一筋。好きなエビは「車エビ」と「アカザエビ」。

エビ」という食材はとても身近な存在で、一年中たくさん出回っています。ただし、多くの方は、ひょっとすると日本のエビを食べたことがないかもしれません。なぜなら、お近くのスーパーに並んでいるエビをよく見ていただくとわかりますが、アルゼンチンにインド、ベトナム、インドネシア……など輸入物がほとんどだからです。

 

エビの一大産地は沖縄の暖かい海

正確な数字はわかりませんが、いま日本で出回っているエビは、8:2くらいの割合で圧倒的に輸入物が多くなっています。国産のエビは、飲食店以外では、一部の高級スーパーでしかお目にかかれないのではないでしょうか。その理由としては、もちろん輸入物が安価なこともありますが、この10年ほどで国内のエビの漁獲量も大きく減っていることも一因。温暖化などで気候が変わったことや、開発によって海沿いや海の中にまで建物がどんどん造られていることが理由でしょう。

江戸前の寿司にはエビの握りが欠かせないことからもわかるように、かつての東京湾は、いくらでもエビが獲れる海でした。しかし、東京湾を横断する「東京湾アクアライン」が建設され、その真ん中にパーキングエリアの「海ほたる」ができて以降は、エビはすっかり姿を見せなくなり、いまでは横浜の金沢八景など一部の場所でしか獲れなくなってしまいました。

エビの産地として有名な北海道では、「ボタンエビ」や「シマエビ」「甘エビ」などの天然物が獲れ、豊洲にも生のまま届けられます。その他には、愛知の三河地方(県東部)ではエビの花形である「車エビ」やハサミの長い「アカザエビ」の天然物が獲れることで知られていますし、おとなりの三重は「伊勢エビ」の産地です。大分でも天然の「車エビ」がよく獲れます。

ただし、いま出回っている国産エビの大半は養殖物。その中心的な産地は、沖縄と九州です。なかでも沖縄はエビの養殖生産量が日本一で、特に1月から5月にかけて、まだ本土が寒い時期に暖かい沖縄で育った「車エビ」が日本全国へと届けられます。6月以降、夏から秋にかけては九州のエビが多くなります。ちなみに養殖の北限は関東地方で、やはり水温が影響しているようです。

 

希少だけど味も格別な国産・天然

このように、国産(養殖+天然)であっても年間を通して出回っているため、エビの「旬」はあまり意識されていないかもしれませんが、最も広く食べられている「車エビ」で言えば、天然物が出回る5月から9月にかけてが「旬」で、それ以降、水温が下がってくると活動しなくなるため、ほとんど獲れません。

ただ、この国産天然物というのは本当に希少な存在になっていて、いまでは国産物の1割程度しかありません。つまり、エビ全体の2割しかない国産物のうちの、さらに1割が国産かつ天然ということ。実際、市場に入ってくるエビが全体で1〜2トンほどあっても、国産の天然物はたったの3〜4キロしかない、という日もあります。そのため価格もお高くなってしまい、「車エビ」の場合でも、天然物は養殖物の3倍ほどの値が付きます。

そういう理由もあって、いまの若い方や子供たちにとって、エビと言えば「ブラックタイガー」や「バナメイエビ」といった輸入の養殖物でしょう。そう若くない層の方でも、ひょっとすると「国産の天然エビを一度も食べたことがない」という方もいらっしゃるかもしれません。国産の養殖物ですら、なかなか一般のスーパーには出回らなくなっていますので、それも仕方のないことかもしれません。

でも、「エビが嫌い」という子供に国産の天然エビを食べさせてみると「おいしい!」と言ってパクパク食べる、なんてことはよくあります。それくらい、輸入物と国産物では香りも味も食感も、もはや別の食材と言ってもいいほどの違いがあるのです。輸入物は冷凍されて日本まで運ばれてきますので、その点で、国産の養殖物とも比べものになりません。

なお、国内のエビの養殖技術は近年とても向上していて、いろいろなエサの工夫などもあり、味もどんどん良くなっています。ただ、それでも天然物と比べると養殖ではエビの活動量が違うため、天然物は非常に筋肉質。いわば「野生のエビ」なので、その身は弾力性があって、味にはしっかりとした甘みがあり、おいしさは格別です。

 

生なのに真っ赤なエビには要注意!

そうは言っても、やはり多く方が日常的に出会うエビは輸入物の「ブラックタイガー」や「バナメイエビ」ですよね。スーパーでは、解凍された状態で売られていることも多くなりました。そういうエビを見るときに知っておいていただきたいのは、エビの体というのは本来もっと黒々としている、ということです。

最近、真っ赤な生のエビが売られているのをよく見かけるのですが、実は、体が赤いのはエビが古くなっている証しです。たしかにエビはアスタキサンチンという赤い色素を持っていて、火を通すと赤くなるのはそのためです。また、なかにはより赤みの強い種類のエビもいます。それでも、生きているエビや獲れたてのエビの体は、基本的に黒いのです(下の写真参照)。

赤という色はなんだかおいしそうに思えますが、それは調理してからのお楽しみにとっておいて、生(解凍)のエビを買う際には、なるべく黒っぽいものを選ぶようにしてください。また、近頃は生で食べるのがいいとされている傾向もあるようですが、個人的には、火を入れたほうがエビのおいしさが引き立つと思いますよ(北海道の甘エビやボタンエビは別ですが)。

そして、もしも運良く国産のエビ(天然でも養殖でも)に遭遇する機会があれば、ぜひとも奮発していただき、その味を堪能していただければと思います。「これがエビか!」と驚くこと間違いなし。もっともっと多くの方に、日本のおいしいエビを知ってもらいたい、それが「エビ屋」の切なる思いです。


沖縄の与那国島から届いた「車エビ」。これくらい黒いのが本来のエビの色。

文・構成/ドイエツコ