和食遺産VOL.12/すったて(埼玉県)

各地の気候風土とそこで穫れる食材とを礎に育まれてきた日本の郷土料理。連載「未来に伝えたい、ニッポン和食遺産」では、先人たちの知恵と想いが込められた47都道府県の逸品を「ニッポン和食遺産」と名付け、人気の郷土料理店のレシピとともにご紹介します。連載第12回目は埼玉県の「すったて」です。

埼玉県中部に位置する、古くから稲作が盛んな川島町で、農家に受け継がれてきた夏の冷や汁「すったて」。暑い夏の忙しい農作業の合間に、簡単においしく食べられるよう考案されただけあって、その調理法は至ってシンプルです。味噌をベースに、ゴマ、きゅうり、大葉、ミョウガ等の夏野菜をすり鉢ですり合わせてから出汁や冷水で割り、それをつけ汁にしてうどんや白米と一緒に食すのが一般的とされています。薬味の清々しい香りとゴマの風味で食欲が進むだけでなく、栄養もしっかり摂れるので、夏バテ知らずの健康食として地元で愛される存在ですが、近年では埼玉県のB級ご当地グルメ王決定戦で優勝し、知名度も上がってきました。一度聞いたら忘れられないそのユニークな語源は、ゴマの「すり立て」が訛ったもの、あるいは、農繁期に座る暇もなく「つっ立って」食べたことが由来だとされています。

冷や汁と言えば宮崎県のものが全国的に有名ですが、川島町の「すったて」は野菜しか使わないので、後味がよりすっきりしているのが特徴です。おいしく作る秘訣は、「いかに新鮮な野菜を贅沢に使うかがポイントになります。当店では通常の倍ほどの野菜を使用しますが、ゴマの擦り加減と少量の砂糖、汁の濃さの塩梅はお好みで」と川島食堂の小久保 賢さん。また、うどんを合わせる場合には、コシの強いさぬきタイプではなく、もっちりとした食感のものを選ぶと、より本場の味に近づくとのこと。締めにごはんを加えて最後の一滴まで味わえば、どんなに暑い日でも元気に乗り切れそうです。

材料(2人分)

炒りゴマ(白または金)大さじ3杯 キュウリ1本 長ネギ1/2本(または玉ネギ1/2個) 大葉8~10枚 味噌大さじ3杯 鰹出汁または冷水適量 砂糖少量 ミョウガ1個  うどん2人前

作り方
①炒りゴマをすり鉢に入れて、よくすっておきます。
②キュウリは輪切りにして塩もみしたあと、水洗いで塩抜きをして水気を切ります。
③❶のすり鉢に、みじん切りにした長ネギと大葉、❷のキュウリ、味噌を加えて、すりこぎでしっかりすり合わせます。
④鰹出汁または冷水を加えてよく混ぜ合わせ、ごく少量の砂糖を入れて味を調えます。
できあがった❹の冷や汁に、千切りにしたミョウガを添えたら完成。茹でたうどんを浸してお召し上がり下さい。

教えてくれたのは…

手打ちうどん 川島食堂

もちもちの手打ちうどんと、こだわりの新鮮野菜をふんだんに使った料理で人気の和食店。郷土食にも力を入れており、夏季(4月~10月)は「すったて」、冬季(11月~3月)には「呉汁うどん」を提供し、地元の町おこしに貢献。大豆をすり潰して作る「呉汁」をアレンジして作られた味噌煮込みうどんの「かわじま呉汁」は、たっぷりの野菜と芋がらのシャキシャキした食感が後を引くおいしさです。夏と冬、それぞれに魅力的な一杯を味わいに足を運んでみてください。

●埼玉県比企郡川島町平沼1064-9 TEL:049-297-5728 www.facebook.com/kawadora1025

埼玉県の食データ海に接しておらず、昼夜の寒暖差が激しい埼玉県は、夏は県内ほぼ全域で猛暑日が続く一方、冬は冷え込みが厳しく、氷点下を記録する地域も。県全域で米づくりが盛んですが、水はけのよい地質を生かし、ゴボウ、ニンジン、サツマイモなどの根菜類も積極的に栽培されています。また、日本で2番目のうどん生産量を誇る「うどん大国」としても知られており、江戸時代を起源とする本格手打ちの「加須うどん」からB級グルメの「鳩ケ谷ソース焼きうどん」まで、県内各地でバラエティに富むご当地うどんが発展しています。


取材・文/有元えり 写真提供/手打ちうどん 川島食堂