おいしい本 Vol.6/『働く台所』

「おいしい本、いただきます。」は、食にまつわるさまざまなウンチクや名場面がいっぱいの、眺めておいしい、読んでおいしい本を紹介する連載です。6回目に取り上げるのは『働く台所』。

創意工夫を凝らして
使い込まれた台所は、

しみじみと美しい。


働く台所』 エクスナレッジ 刊

「家の中でいちばん多くの時間を過ごす場所は?」と聞かれたら、私は迷わず「キッチン」と答えます。食が暮らしの中心であり、料理するだけでなく、団らんの場でもあるから。ステイホームが長引く昨今では、ますますキッチンでの時間が増えてきました。

さて、キッチンではなく、台所という言葉がぴったりなのが本書。『働く台所』で紹介されているのは、インテリア雑誌に登場するような、整然としたスタイリッシュな空間ではありません。前書きによれば、働く台所とは“働きものの台所”。古い建物の良さを活かしつつ、使い勝手がいいように住み手が工夫を凝らし、使い込んで味わい深く育てた台所ばかりなんです。

登場するのは13人。古民家を改装して農家民泊を行っている人、町屋の台所を交流の場にしている人、賃貸マンションをDIYで工夫している人――。主のひとりが「台所は、そこに住む人の生活が現れる場所なんだと思います」と語っているように、それぞれの台所から、それぞれの暮らしの物語が伝わってきます。食器がぎっしり詰まった棚や、窓辺に吊されたキッチンツール、自家製梅干しやシロップが入ったガラス瓶など、小さなコーナーやアイテムの置き方ひとつにも主のライフスタイルが反映されているからか、写真の隅々までじっくり見入ってしまいます。モノがたくさんあるのに、雑然とした感じが一切しないのも、台所に対する愛情と美意識が宿っているからなんでしょうね。

ゆっくり眺めるだけでも楽しい本ですが、実用的な情報もちらほら。登場する主たちの愛用する器や道具、調味料などを紹介するコラムが挟まれています。また、それぞれの台所の紹介の中に、「とり天」や「白あえ」など、日々の食卓を彩る料理のレシピがさりげなく挿入されているのもうれしい構成。台所にまつわる主の物語を読んだ後だと、友人の家に遊びに行った時に教わるような親しみやすさがあります。たくさんの工夫やアイデアを参考にしつつ、ウチも自分ならではの「働く台所」に育てていきたいと思えた一冊でした。

 文・写真/高瀬由紀子