おいしい本 Vol.16/さとうち 藍 著『冒険図鑑』

「おいしい本、いただきます。」は、食にまつわるさまざまなウンチクや名場面がいっぱいの、眺めておいしい、読んでおいしい本を紹介する連載です。16回目に取り上げるのは『冒険図鑑』です。

焚火でつくる
ワイルドなごはんは、

野外生活の醍醐味。


冒険図鑑』  さとうち藍 著 福音館書店 刊

初めてのキャンプは、今でも忘れられません。突然の大雨の中でテントを張ることになった時は半泣き状態でしたが、野外ごはんの美味しさ、雨露をしのげる有り難さ、自然の中で目覚める爽快さなど、初めての体験の連続ですっかりキャンプの虜に。ここ数年はご無沙汰していましたが、この本に出会って、忘れていた冒険心がくすぐられました。

思わず手にとってみたくなる、『冒険図鑑』というタイトル。子ども向けながら、大人が読んでも示唆に富む、野外生活指南の決定版です。1985年の発行ゆえ、装備など少し古さを感じる部分もありますが、“野外で生き抜く”サバイバル的な知識や自然を大切にする姿勢など、時代を超えた大切な要素が満載。デジタルネイティブ世代の子どもたちも夢中にさせるワクワク感が、ロングセラーにつながっているのでしょう。

内容は、「歩く」「食べる」「寝る」「作って遊ぶ」「動物・植物との出会い」「危険との対応」という6章の構成。日頃の便利な暮らしに慣れているせいか、目からウロコの項目が並びます。たとえば、雲の種類から天気を予測する、自然の木や石で道具をつくる、虫刺されや切り傷に野外の薬草を利用する等々。「図鑑」なだけに、ていねいに描かれたイラストが3000カットも展開されていて、すごく分かりやすい! とりわけ、ボタニカルアートのように精緻な植物図は圧巻です。

そして、本の中でも大きなボリュームを占めるのが、「食べる」の項目。包丁の使い方やご飯の炊き方といった基本から、かまど作りや火のおこし方、おいしい山野草の食べ方やダイナミックな野外料理まで紹介されていて食欲をそそります。竹筒飯や石焼きの魚など、大胆でワイルドな料理こそ野外ごはんの醍醐味。最近ではアウトドアギアが便利になりすぎではと思うくらい、家とあまり変わらない滞在環境をつくることも可能ですが、不便だからこそ工夫する喜びや自然を敬う気持ちが育まれることも多いはず。大人も子どもも、生きる力を養うには格好の1冊です。

 文・写真/高瀬由紀子