「おいしい本、いただきます。」は、食にまつわるさまざまなウンチクや名場面がいっぱいの、眺めておいしい、読んでおいしい本を紹介する連載です。12回目に取り上げるのは、祥見知生によるエッセイ『うつわを愛する』です。
作り手の思いが宿る
うつわと共に過ごす、
心豊かな暮らし。
『うつわを愛する』 祥見知生 著 河出書房新社 刊
うつわを愛することは日々を愛すること——。巻頭の言葉からも、著者にとって、うつわとは単なる食の道具ではないことが伝わってきます。文はこう続きます。「ほんとうに心を許せるうつわを自分の手で見つけ、ともに暮らす時間を慈しむことができたなら、孤独も憎しみもいつか超えていけるように思えてなりません」、と。
鎌倉でうつわのギャラリーを営む筆者によるこのエッセイには、25人の作り手たちの紹介と、うつわとの付き合い方あれこれが記されています。はっとしたのは、「うつわとの約束」という一編。著者が長年にわたって使い親しんでいるコーヒーカップとの関係が、秘めた恋に例えられています。「朝のコーヒーはあなただけを使い続ける」という、人知れず交わした約束。「お気に入りのマイカップで飲むと美味しい」という軽々しく浮ついた関係ではなく、もっと確かな結び付きで信頼しあっているのだと。
この入れ込みようが我ながら可笑しくもあると著者は語りますが、ここまで深いうつわとの蜜月にはうらやましさすら覚えます。作り手たちの真摯な思いが宿ったうつわは、決して無機質なモノではなく、時には相棒であり、時には恋人のように愛おしい存在になりうるのですね。
著者が愛するうつわたちを生み出す作り手を紹介する章では、うつわの特徴や魅力はもちろん、どんな料理を盛ってみたいか、作り手がどういう思いで制作に向き合っているのかなど、長年の交流がある著者だからこそ察したことが綴られています。“実直な人柄が伺えるていねいな線刻”や、“飽くなき探究心がもたらす力強い存在感”というふうに、美しい写真とともに読み進めると、なるほど「うつわとは作り手自身を映すもの」なのだと頷かされます。個人的には「清らかさ」という表現に打たれました。白磁の上品なうつわに、使う人を思いやる心から生まれた、邪念のない清らかな魂を感じ取ったというくだりに、ぜひ私も使ってみたいと思ったのです。
新たなうつわとの出合いが楽しみになるだけでなく、お気に入りのうつわとの関係をもっと深く育んでいきたいと改めて思いました。
文・写真/高瀬由紀子