てまひまストーリー Vol.1/床井柚子園(栃木県)

 「てまひまオンライン」に並ぶ“おいしいもの”の生産者さんを訪ね、自然と向き合う姿勢や、ものづくりの哲学を訊く「食の匠のてまひまストーリー」。第1回目は、栃木県宇都宮市で「宮ゆず」の生産を手がける「床井柚子園」の思いをお伝えします。

豊かな時間を醸し出してくれる、
柚子は私の大事なパートナー。


床井柚子園を訪ねたのは、残暑厳しい8月の終わり。日差しは強いのですが、青々とした実をつけた柚子の木の間を吹き抜ける風は涼やか。一般的に、暖かい土地でできるイメージがある柚子ですが・・・。

「ここは北緯36°、北に日光連山を望み、“男体おろし”と呼ばれる、乾燥した冷たい北風が吹く土地です。私の父が柚子の木を植え始めたのが昭和391964)年のことで、安定した生産を続けられるようになるまでには非常に苦労がありました。しかし、寒暖の差が大きいことは柚子の生育によい影響を与え、ここでできる柚子は皮が厚く、香りも強いのが特徴です」

そう語るのは、亡き父の後を継いで床井柚子園の代表を務める、床井光雄さん。宇都宮の柚子は「宮ゆず」と呼ばれ、床井さんは品種でいうと、古来からある、寒さに強く大ぶりな柚子「大実(おおみ)柚子」と、比較的新しいもので小粒で種のない「多田錦(ただにしき)」のふたつを生産しています。ことに多田錦は果汁たっぷりで、種がないこともあって、さまざまな用途のある使い勝手のよい柚子だとか。

「夏場に実る青い多田錦なら、焼き魚に搾ったり、カクテルや冷たい水に絞ると爽やかな風味が引き立ちます。11月以降に黄色くなれば、ハチミツ漬けにしてお茶請けにしていただいたり、紅茶に添えたり、パウンドケーキなどにのせていただくとまた格別です。そうそう、実は、春に伸びる柔らかい新芽は、天ぷらにするとおいしいんですよ」


左:床井柚子園には約250本の柚子の木があります。夏は青柚子の季節。右:左が種のない「多田錦」、右が大ぶりな「大実柚子」。

 
パリの人は、自分がシェフ。相手に媚びませんね。


夏から冬まで実をつける柚子。1年を通して柚子と向き合う作業には、息つく暇もないのです。

「ここには約250本の柚子の木があり、年間を通して収穫量は平均1015トンです。安定した品質を維持するために、木を低くつくることが大事ですが、これを毎年キープするのが大変。柚子の木は実が多くつくよう横に開いて伸ばしていくので、雪の多い年は重みで割れることもあります。伸びてくる芽のどれを落としてどれを残すかの見極めも大切ですし、本当に手がかかる。でも、手がかかる分だけ、応えてもくれるんです。園いっぱいに黄色い実が成ると、本当に綺麗だなあと思います。このまま収穫しないでおこうかと思うほどです(笑)」

いまや「YUZU」は世界の食通が知るところ。なかでも床井さんのつくる柚子は、食べ手だけでなくシェフたちからも高い評価を受けています。

2018年、19年と、パリで開催された日本の食の販路開拓事業に参加し、フランスのシェフや食品バイヤーの方とじかにお会いしたのですが、彼らは本当に柚子のことをよくご存じでした。パリの人は、絶対に相手に媚びませんね。こっちの説明や周りの意見に、安易に同意しない(笑)。自分の感覚で、自分の言葉で感想を伝えてくれます。彼らからは、この柚子をどんな料理やどんなものに加工すればいいかを教えてほしいのではない、それを考えるのは自分だから、この柚子そのものの味を自分で感じ取りたい、理解したいという思いを強く感じました。パリの人は『自分がシェフ』なんですね」


左:11月頃には黄柚子に。木に鈴なりになるさまはまさに絶景。右:パリでのひとコマ。床井さんの柚子は大人気でした。

コクや旨味、塩味(えんみ)まで感じられる柚子。


2020
7月にオープンしたホテル、ザ・リッツ・カールトン日光でも、床井さんの柚子が料理に使われています。同ホテル総料理長の早坂心吾さんは、床井さんの柚子の魅力をこう語ってくれました。

「ホテルの開業にあたり、お客様にお出しする料理には地の食材を使いたいと思っていました。もともと床井さんの柚子のことは知っていたのですが、実際にお会いしたのは、とあるシンポジウムで、です。床井さんの柚子は、果汁はまろやかな酸味でフレッシュ、決して尖ってはいない。しかも、旨味や塩味(えんみ)も感じられる点が特徴です。なので、洋食レストラン『レークハウス』でお出しする料理のソースに使ったり、寿司カウンターで使う自家製のゆずポン酢をつくったり、サラダのドレッシングに使ったりと幅広く使わせていただいています」

そう、床井さんの「宮ゆず果汁」をひと舐めしてみればわかるのですが、なにも加えずただ搾った果汁のみのはずなのに、コクや旨味や塩味が感じられるのが最大の特徴なのです。他の柚子とは、この点がまったく異なります。早坂シェフいわく、床井さんの柚子は「無限の可能性を秘めた、料理の名脇役」。その柚子のエッセンスがぎゅっと詰まった「36°MIYAYUZU果汁」を使えば、私たちの毎日の食卓がぐっとランクアップすること間違いなしです。


上左:ザ・リッツ・カールトン日光は中禅寺湖のほとりに佇むホテル。上右:同ホテルの総料理長、早坂心吾さん。下左:床井さんの柚子を使った早坂シェフの料理から。「日光水羊羹 床井柚子園の柚子 抹茶 栃木県産ミルクアイスクリーム」には、濃厚な牛乳アイスに黄柚子の皮のコンポートで酸味を効かせ、上にのせたライスパフの上には黄柚子のパウダーを散らしています。下右:「季節の鮮魚のマリネ 床井柚子園の柚子 日光湯波 キャビア 紫蘇」。ソースに柚子の果汁と青柚子胡椒を使い、黄柚子のドライパウダーを散らして。

 
さらなるブランディング、始めます。
 

床井さんは言います。「うちの『宮ゆず果汁』は皮ごと搾ってあるので、香りも損なうことなく閉じ込めています。パリでの評価を受けて、さらなるブランディングのため、宇都宮の緯度を示す『36°』をブランド名として一連の商品をシリーズ化することを決めました。今回、てまひまオンラインで販売する宮ゆず果汁のセットをはじめ、ゆずドレッシングやゆず七味など調味料となる“さ・し・す・せ・そ”のシリーズ『SA SHI SU SE SO』を、パッケージも新たにギフト需要もにらんで展開していきます」

最後に伺いました。床井さんにとって、柚子とはどんな存在ですか?

「パリの人々をはじめ、国境やジャンルを越えて一流のプロフェッショナルと出会わせてくれる、そして彼らと交流する豊かな時間を醸し出してくれる存在です。私にとって、柚子は大事なパートナーですね」

左:「てまひまオンライン」で発売中の「36°MIYAYUZU果汁(2本セット)」。味わっていただければ、その旨味にきっと驚くはずです。右:床井さんがてまひまかけて育てた青柚子。 

 

●床井柚子園 www.miyayuzu.jp

写真(早坂シェフ、料理)/長谷川潤 写真提供(黄柚子とパリの模様)/床井柚子園 動画/細沼孝之 音声/林健太 その他写真・文/てまひまオンライン