知恵袋 VOL.7「山菜」

日々、口にしている食材にまつわる「おいしい話」「耳よりな話」を目ききに教わる「食の目ききの知恵袋」。今回は、春になると食べたくなる「山菜」について、楽しみ方と知っておきたい注意点を、築地の青果卸売会社で活躍する目ききに教えていただきました。
 

【今回の目きき】田子真俊さん
青果をはじめとする生鮮食品の卸売りを行う株式会社「メトロファーム」の営業部長。かつては自ら農業を行っていた経歴を持つ。現在は、野菜のことを知り尽くした仕入れ担当として、定番だけでなく目新しい野菜も積極的に取り扱うことを心がけている。 https://metrofarm.jp

2月の下旬から3月にかけて、春の訪れを知らせてくれる野菜と言えば、やはり「山菜」です。あの独特の苦味が好きな方も多い一方で、やっぱり苦手という方もいらっしゃるでしょう。また、自宅で調理するのはちょっと難しいイメージもあるかもしれませんが、実は意外と簡単だったりもします。ぜひ、もっと身近な野菜として「山菜」を味わっていただきたいと思っています。

 

「野菜」と「山菜」はどう違う?

 ところで、いま「野菜」と書いたのですが、われわれのような青果卸をしている者の間では、人の手で栽培管理されたものを「野菜」と呼び、それ以外の、山や野に自生しているものを「山菜」あるいは「野草」と呼び分けています。

そのため、具体的にどういう種類が「山菜」にあたるかという決まりはありません。例えば、春の七草のひとつである「セリ」は代表的な山菜のひとつですが、最近では広く栽培もされるようになってきました。そこで、栽培された「野菜」としては「セリ」と呼び、自生していた「山菜」のほうは「野ゼリ」と呼ばれます。

そうは言っても、「山菜」として出回っているものすべてが本当に、山や野の自然に生えていたところから採ってきたものかというと、さすがにそんなことはありません。畑で栽培されたものであっても「山菜」として流通していることは、たくさんあります。ただ、ハウスで温度管理をして育てたような場合とはちゃんと区別されている、と思っていただければいいでしょう。

そのように栽培管理されたものは、もともとの暦よりも少し早く、11月頃から出回り始めます。それに対して、2月下旬から3月にかけて、寒い冬を越えてそろそろ春が来ることを感じ始めた植物たちが一斉に目を覚ましたところをいただくのが、本来の「山菜」と言えます。まさに、自然の恵み・山野の幸ですね。

 

意外と身近なところにある山菜たち

よく知られている山菜には、ワラビやゼンマイ、ウド、フキノトウ、コゴミ、タラの芽……などがありますが、およそ300種類が食べられていると言われています。「え、そんなにたくさんあるの!?」と思ったかもしれませんが、山菜の大きな特徴として、地域によって食べられるものが違う、という点が挙げられます。

山菜は(ほぼ)自然の中で育つわけですから、当然、気候や土地の特性によって、よく育つ種類も違ってきます。その土地土地で昔から身近に育っていて、地元の人が生活の中で収穫し、大切な食糧や栄養源としてきたものこそが山菜なのです。そのため、地方の産直市場などに行くと、見たこともないような山菜がたくさん並んでいて、とても興味深いです。

また、「山野に自生している」と聞くと、自然豊かな場所でないと見かけないように思うかもしれませんが、実は、よく知られた山菜でも都市の中で見かけることが結構あります。

例えば「タラの芽」。春先の天ぷらの定番であり、「山菜の王様」とも呼ばれますが、その名のとおり、タラノキという木の新芽が「タラの芽」です。これを収穫して、山菜として食用にしているわけですが、タラノキそのものは街路樹としてもよく植えられているのです。ぜひ今度、お近くの街路樹をよく見てみてください。幹から小さなタラの芽が顔を出しているかもしれません。

他にも、新芽が山菜として食べられている木は意外と多くあります。ひょっとすると、自宅の庭に生えている木がそうだった、なんてこともあるかもしれませんね。もちろん、自宅に生えている場合なら採ってみてもいいでしょうが、街路樹の芽は、決して勝手に採らないようにお願いします。

 

山菜はきのこと同じ。採集は要注意

地方出身の方であれば、「山菜はその辺に生えているもの」という感覚をお持ちかもしれません。実際、子どもの頃に自宅の裏山でよく「ゼンマイ」を採っていた、といった思い出がある方も多いでしょう。そういう山菜は、それこそ長い間、家族や地元の人たちが食べてきたものなので問題ありませんが、知らない山野で山菜を収穫することはやめておいたほうがいいです。

ひとつの理由として、他人の所有地で勝手に収穫してはいけないということもありますが、きのこの場合と同じように、よく似た植物でも人体に害のある成分を持っているものも結構あるからです。

例えば、「山菜の女王」とも呼ばれる「コシアブラ」はウコギという木の若芽ですが、ウルシ(ヤマウルシ)の芽と非常によく似ています。ご存じのとおりウルシに触るとかぶれるので、コシアブラだと思って間違って触ってしまったら、あとが大変です。また、近年は栽培ものも多く出回って人気の「行者ニンニク」はスズランとよく似ているのですが、スズランは有毒なので注意が必要です。

食べられているものだけでも300種類あるわけですから、それ以外にもさらに多くの植物が山や野には自生しています。なかには非常に危険なものもあるため、よく知らずに安易に「山菜採り」に出かけるのは控えるようにしてください。

 

山菜の苦味から春を感じよう

それよりも、最近は多くの種類がスーパーにも並ぶようになっていますので、ぜひ気になったものからチャレンジしてみてください。山菜はどうしても苦味やエグ味が強いのですが、それは、いわば「春の味」。昔ながらの風物詩として、ぜひエグ味ともども春を味わっていただきたいです。

ちなみに山菜には、ポリフェノールなどの抗酸化作用の高い成分をたくさん含むものが多く、それがあの特有の苦味やエグ味の原因になっています。これらの成分は肝機能の代謝を助け、冬場に蓄積した老廃物を排出してくれるため、「山菜で春に新たな体のサイクルを作る」とも言われているのです。

なお、山菜と言えば天ぷらが真っ先に思い浮かびますが、もちろん、他の調理法でもおいしく食べられます。「ワラビ」と同じシダ植物の「コゴミ」であれば、バター炒めがおすすめ。新鮮なものなら下処理しなくても大丈夫ですので、とても手軽です。他にも、「フキノトウ」を刻んでサラダにするなど、天ぷら以外のいろいろな食べ方を発見するのも面白いでしょう。

購入するときは、断面が白っぽかったり茶色くしなびたりしていないものを選んでください。また、「天然」と表示されていれば自生していたものということ。エグ味が一層強く、トゲやウブ毛も強いことが多いので、どうしても抵抗感があるようでしたら、まずは栽培ものから試してみるのも手です。

でも、やはりあの独特の風味こそが山菜の醍醐味ですので、春を感じながら楽しんでいただければと思います。

文・構成/ドイエツコ