パリだよりVol.6/「パヴィヨン・ルドワイヤン」廻神大地 准料理長(後編) 「フランスで働く日本人フレンチシェフとして」

パリの”食”に関する話題を、パリ在住の日本人シェフによるリレー形式でお届けする「日本人シェフのてまひまパリだより」。ヤニック・アレノ率いる「パヴィヨン・ルドワイヤン」准料理長の廻神大地シェフの後編をお届けします。アレノシェフから学んだこと、そしてこれからについてのお話をお楽しみください。

こんにちは。パリ8区のパヴィヨン・ルドワイヤンの准料理長、廻神大地(めぐりかみ・たいち)です。 後編では、僕のいまとこれからについて、お話ししたいと思います。

いまを生きるフランス人の舌を満足させるために

季節としては秋が一番、食材にフランス料理らしさを感じられる季節だと思います。ジビエ、きのこ、トリュフ……。厨房に入り、ジビエの赤ワイン煮の匂いが漂ってくると秋を感じますね。その後、白トリュフ、黒トリュフが出るようになって、クリスマス(ノエル)、そしてサンシルベストル(大晦日)のための特別メニューの準備があり、豪華な素材が勢揃いします。秋から冬は、フランス料理にとって一番よい時季ではないかと感じます。

めぐる季節の中で、現代を生きるフランス人の舌に合わせて新しい味を求めていくとなると、とどまることなくいろいろな国の食材・調味料を使い、発見し続ける必要があります。伝統的なフランスの食材だけに固執すると、新しい味が生まれません。イタリア、韓国、中国、日本と、料理人だけ見ても多彩な国籍の社員が集まっているいまの職場では、常に色々な発見をさせてもらっています。

アレノシェフと一緒に働いていていつも感じるのは、ゲストに喜んでもらうために、自分たちも一緒に楽しんで仕事をすることの大事さですね。ゲストの立場として店内で座って自ら食事をすることも多く、そこから見えてくることもあります。想像ではなく体験しながら料理をすることを、アレノシェフは変わらずに実行しています。

フランスで働く日本人フレンチシェフとしての想い
 
2012年に、地中海に面したラングドック地方のセットという地で生まれた娘が8歳になります。僕は意図してパリ近郊だけでなく地方の星付きレストランでも働いてきたので、各地のユニークな食材や地方料理の傾向を学べたのはよかったです。たとえば、アルザスのシュークルートや、南仏のトマトなどなど……。

日本人がフレンチを作るのですから、フランス人と対等に渡り合おうと思ったら、各地方の料理本を読んで研究したり、地方を回って、自分にもともとないもの、フランス人が当たり前にもっている食に関する感覚や常識などを吸収したりする必要があります。僕が持っているオーギュスト・エスコフィエの本は1997年に買ったものですが、いまでも厨房に持って来たりと、なにかの際には参考にしてずっと大切にしています。

地方で得た経験や知識も身につけていると、逆にフランス人が日本人の僕に“クラシック”を訊いてくることもあります。この前も「パテ・ジビエの作り方を教えてくれ」とフランス人に言われて。フランス人がフランス料理のクラシックについて日本人に訊いてくるなんて、我ながら面白いと思いましたね。若い頃、シェフ・ド・キュイジーヌをしながら料理学校で教えていた経験がありますが、生徒と歳があまり変わらないこともあり、自分なりにすごく勉強したことは、いまでも役に立っていると思います。

次の世代を育てていくこと

アレノシェフはアメリカンホスピタル(パリ近郊にあるフランス国内最高峰の私立病院)の病院食のメニュー監修もしており、その料理の内容を考え、教えることも僕が担当しています。また、フランスの50以上の地でフードサービスの提供を行うコンパス・グループが手がけるクラブレストランのシェフたちへの講習も担当しています。具体的にはガストロノミー版、ビストロ版の各メニューを作って、参考にしていただく、又テクニックも教えに行っています。ルドワイヤンだけでなく、このような外部への教育の部分も、アレノシェフが信頼して片腕として任せてくださっているのは嬉しいですね。

星付きレストランでも、次世代の教育がやはり大切だと思います。部下を育てて自分は徐々に手を離していくことにより、いままでの2倍以上の仕事ができるようになります。昔の僕はかなり厳しかったようで、当時を知っている料理人からは前と比べるといまは仏のようだと言われますが(笑)、教育については重責を担っていると自負しています。

昨年10月末、ルドワイヤンの副料理長のポジションから准料理長に昇進しました。これはパヴィヨン内にある3つのレストランと宴会、いずれの場所でも料理長の代わりとして働くことができることを意味しており、光栄に思っています。現時点では、自分の店を開くことは考えていません。素晴らしい食材や機材が整った環境で、新しい料理の試作に十分時間をかけられますし、研究も自由にできて営業中にゲストのように試食ができるなど、いまの環境は非常に恵まれていると思っているからです。自分で店を持ったら、いまと同じ環境を保てるかといったら難しいでしょう。そうやって働き、ゲストに喜んでいただき、売り上げにも貢献し、料理も開発させてもらって楽しく日々を過ごせるのだから、十分に価値があり、やりがいもありますね。

パリでお気に入りのスポット

パリでのお気に入りの場所はと問われたら、街全体というのが答えになるでしょうか。車で走っているだけでも見どころがたくさんあり、本当に美しい街だと思います。それでも、あえて一カ所あげるとしたら、やはりパヴィヨン・ルドワイヤンですかね。オフの時でも、娘を連れてふらふら遊びに来たりしています。シャンゼリゼ大通りのすぐ横ですが、少し引っ込んでいることもあって、とても静か。 横にある公園で、他のシェフにキャッチボールやフリスビーで遊んでもらったりして、娘も喜んでいます。

歴史的建造物としての趣もそうですが、アレノシェフの提案で後から加えられた現代的なアレンジも素晴らしく、パヴィヨン・ルドワイヤンは大好きな場所です。毎年、クリスマスの時期には社員のためのファミリーパーティーも開いてくれるので、その時は家族全員で来ています。アレノシェフは、自分たちが楽しくなければゲストを楽しませることはできないとよく話していますが、パヴィヨン・ルドワイヤンではそれが実践されていて、社員は部署を超えてみんな仲がよく、非常にいい環境だと思います。

この業界は人の入れ替わりが激しいのが常ですが、うちのスタッフは定着して働いています。第一次ロックダウンの時は、全スタッフが交代で自分の家の自慢のレシピをインスタで紹介するなど、みんなが家族のようなところもあります。昨年からはコロナの影響で、思うような活動ができなかったところはありますが、このチームワークを原動力に、今後もますます国内外に“アレノワールド”を発信していきたいと思います。応援をよろしくお願いいたします。(廻神シェフ第一回・終)

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左上:「アレノ・パリ」のスペシャリテより「キャビアとラングスティーンのタルト」。右上:「ラビス」のメニューより「カリフラワー風味の牡蠣スペシャル、ディルのオイル」。左下:「ラビス」より「キノコのギモーブ」。右下:ヤニック・アレノシェフと廻神大地シェフ。ページトップの料理は「パヴィヨン・ルドワイヤン」より「平目のナージュ、サリコルヌと貝のフリカッセ、黒ラッキョウ」。●PAVILLON LEDOYEN https://www.yannick-alleno.com/fr

写真提供/廻神大地 取材/シフォロ光子(パソナ農援隊パリ支店)