土に近いものづくりを、もう一度
— 阪東食品 —
📍徳島県
徳島県の山あい。
柚子やすだちが育つ自然豊かな土地で、発酵や柑橘を軸にしたものづくりを行う「阪東食品」。
ここでは、農業だけでなく、加工や商品開発、さらには流通まで、一貫して手がけています。
その背景にあるのは、少し意外なスタートでした。

書類づくりから始まった、農業との関わり
阪東さんが農業に関わるきっかけとなったのは、畑ではなく“書類”でした。
ご両親が有機栽培を行う中で必要だった認証の申請書類。
当時は会社員として働いていた阪東さんが、それを作成していました。
「これ、自分にしかできないなと思ったんです」
その実感が、農業の世界に入る決断へとつながります。
とはいえ、最初から知識があったわけではありません。
農業大学校で1年間学び、現場ではご両親から教わる日々。
「通用したのは、メンタルくらいでした」
そう振り返る言葉には、ゼロから積み上げてきたリアルな時間がにじみます。
季節とともに変わる、仕事のリズム
冬から春にかけては、柚子の剪定作業。
山の中で、数人のスタッフとともに枝を整えていきます。
初夏には、徳島に古くから伝わる発酵茶「阿波番茶」の収穫と加工。
そして秋になると、柚子やすだち、ゆこうといった柑橘の収穫が始まります。
自然のリズムに合わせて、仕事も移り変わっていく。
その合間に、出荷や在庫の管理、商品開発といったデスクワークもこなします。
畑と商品、その両方に向き合う日々です。
捨てていたものに、価値をつくる
阪東食品のものづくりの軸にあるのが、「アップサイクル」という考え方です。
これまで廃棄したり、肥料に回していた素材を見直し、新たな商品として生まれ変わらせる。
その代表的なひとつが、「バカスコ」。
柚子の風味と発酵の要素を掛け合わせた調味料で、自由な発想から生まれた商品です。
「これは、つくっていて楽しいんです」
一方で、対照的な存在もあります。

伝統をどう届けるかという挑戦
徳島に伝わる発酵茶「阿波番茶」。
生産量は限られ、乾燥状態で年間およそ450〜500キロほど。
毎年すぐに売り切れてしまう希少な存在です。
ただ、その分価格も高くなりやすい。
「このままだと、届けられる人が限られてしまう」
そう考えた阪東さんは、新たな形として“スパークリング”に加工する取り組みを始めました。
液体にすることで、より多くの人に楽しんでもらえる形へ。
「価値は、ちゃんと説明しないと伝わらないと思っていて」
その言葉の通り、商品だけでなく背景まで含めて届けようとしています。
暮らしの中に、自然の余白を
柚子胡椒やシロップ、ぽんずといった商品は、日々の食卓に寄り添う存在です。
中でも柚子胡椒は、奥様のレシピから生まれたもの。
手仕事の積み重ねが、そのまま味に表れています。
どれも派手さはないけれど、あると少し嬉しい。
そんな距離感のものづくり。

土から離れないという選択
これから挑戦したいことを尋ねると、少し意外な言葉が返ってきました。
「まずは、土台からですね」
放棄されてしまった農地をどうするか。
その課題に向き合うことが、次の一歩だと考えています。
その一方で、バニラビーンズの栽培や、発酵を活かした新しい商品づくりにも関心を寄せています。
「できれば、自分でやりたいんですけどね」
そう笑いながらも、その視線は常に“次”へと向いています。
フランスで出会った藁のアイスクリームや、杉の風味を活かしたビール。
そんな記憶もヒントにしながら、
自然と人の間にある新しい価値を探し続けています。
特別なものではなく、日常の中で
阪東食品のものづくりは、決して特別なものだけを目指しているわけではありません。
むしろ、日々の中に自然に入り込むこと。
気づけば手に取っていること。
そんな“ちょうどいい距離”を大切にしています。
土から生まれたものを、無理なく、無駄なく、次へとつなぐ。
その積み重ねが、これからの食のかたちを、少しずつ変えていくのかもしれません。
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