和食遺産VOL.10/しもつかれ(栃木県)

各地の気候風土とそこで穫れる食材とを礎に育まれてきた日本の郷土料理。連載「未来に伝えたい、ニッポン和食遺産」では、先人たちの知恵と想いが込められた47都道府県の逸品を「ニッポン和食遺産」と名付け、人気の郷土料理店のレシピとともにご紹介します。連載第10回目は栃木県の煮込み料理「しもつかれ」です。

栃木県を中心とする北関東地方の伝統料理「しもつかれ」は、2月最初の午の日に無病息災を祈って、赤飯とともに稲荷神社に供えられた行事食。現在でも地域や家庭ごとに受け継がれる味があり、「しもつかれを三軒(または七軒)食べ歩くと病気にならない」という言い伝えが残るほど栄養豊富な保存食として知られていますが、県民にとっては給食にも登場する“おばあちゃんの味”としてお馴染みの存在です。「鬼おろし」と呼ばれるおろし器で大根と人参を粗くすり下ろし、鮭の頭と大豆、油揚げ、酒粕などと一緒に形がなくなるほどクタクタに煮込んだ「しもつかれ」の最大の特徴は、なんといっても独特の見た目と発酵食品ならではの香り。白いごはんにのせて食べるほか、小皿に盛って日本酒のあてとしていただくと、風味が増してまろやかなおいしさが楽しめます。

作り立てがおいしいのは勿論のこと、冷めた状態でも味が落ち着いて好まれるといいます。保存食であることからも、一度にたくさん作って冷凍し、少しずつ解凍していただくのが栃木の家庭の定番だそう。鮭や酒粕の量を加減して味を調えるのが一般的ですが、今回はほんだしやしょうゆを使うことで味に深みと甘みを出しています。地域によってはお酢を加えることもあるので、自分好みの調味料を加えたアレンジもぜひお楽しみください。

材料(20人分)

塩鮭の頭(よく洗い、半分に切って酒に漬けておく)3個 料理酒適量 大根3本 人参2本 水500㎖ 炒り大豆80g 油揚げ5枚 さつま揚げ2枚 ほんだし(市販品)8g 酒粕300g 薄口しょうゆ適量

作り方
①塩鮭の頭をグリルでしっかり焼いてから、圧力鍋で20~30分煮て、煮崩れを起こさせます。
②鬼おろしで大根と人参をすべておろします。
③大きめの鍋に❶の鮭の身と煮汁を少量、さらに水を入れます。そこへ炒った大豆も加えて、柔らかくなるまで煮ます。
④湯通しした油揚げとさつま揚げを、千切りにしておきます。
⑤❸に❷とほんだしを入れて中火で煮ます。途中で❹を加えて煮詰めたら、その上に手でちぎった酒粕を覆うようにして敷き詰め、さらに煮ます。
⑥大豆以外の材料が形をとどめていないことを確認したら、最後に薄口しょうゆで味を調えれば完成です。

教えてくれたのは…

ことり食堂

栃木県産のお米や有機野菜を使った日替わり定食をいただける外苑前の小さな食堂。野菜をたっぷり使った栄養満点のスープなど、心と身体にやさしいごはんが評判です。本記事掲載後、ご希望の方には先着で「しもつかれ」を加えた定食をご用意してくださいます。イートイン、テイクアウトのほか、お弁当のデリバリー、パーティ料理のケータリングも実施中。店舗はランチ営業のみで、定食が売り切れ次第終了(現在不定休のため、ランチの営業日はSNSをご確認ください)

●東京都渋谷区神宮前2-3-28 TEL:03-3478-5332  www.instagram.com/kotori_non/?hl=ja

栃木県の食データかつて下野の国に属していた栃木県は、地理的な優位性を生かして近郊農業が盛んです。イチゴ、ニラ、人参、かんぴょうなどが主要農産物として有名ですが、とりわけかんぴょうは国内総生産量の99%を占めています。海のない県だけに農産物や川魚を工夫して、保存・加工する技術が発達し、郷土料理にも「らっきょう漬け」や「鮒の甘露煮」など保存食がいくつも存在します。ご当地グルメでは「宇都宮餃子」、「ソースカツ丼」、しもつかれとカレーを合わせた「しもつカレー」などが巷で人気です。


取材・文/有元えり 写真提供/ことり食堂