「おいしい本、いただきます。」は、食にまつわるさまざまなウンチクや名場面がいっぱいの、眺めておいしい、読んでおいしい本を紹介する連載です。18回目に取り上げるのは『鉱物のお菓子』です。
ガラス瓶に詰めて
窓辺に飾りたい、
食べられる鉱物標本。
『冒険図鑑』 さとうかよこ 著 玄光社 刊
何百万年、何千万年という果てしない時間の中で生み出されてきた鉱物。自然の造形物である結晶の美しさは、古来、多くの人々を魅了してきました。鉱物標本のショップを経営する著者もそのひとり。鉱物選びの基準は、形の整い方や希少度以上に「美味しそうであること」だという著者が綴る「食べられる鉱物標本」のレシピが本書です。
幾何学形にカットされ、光を通して色とりどりにきらめく「鉱物のお菓子」は、写真を見ているだけで涼やかな気分に。標本箱やシャーレに並べられた姿は、本物の鉱物のよう。表面の砂糖が乾燥して磨りガラスのような質感になったものは、さらにリアルです。
レシピは、和菓子の琥珀糖、マジパンやチョコレートを使った洋菓子、鉱物の色を再現したドリンク、ムースやテリーヌなどのオードブルまで、バラエティに富んだラインアップ。とりわけ、煮溶かした寒天に砂糖や水飴などを加えて固める琥珀糖は、うっとりするほどの美しさ。完全な八面体をした蛍石、六角柱の上側が尖った形の水晶、グラデーションがきれいなトルマリンなど、鉱物のミニ知識も得られます。一見ソリッドに見えて、口に含むと外はシャリシャリ、中は弾力があってしっとりという食感にもそそられる!
レシピの工程を見ると、お菓子づくりというより実験のようでワクワクします。煮溶かした寒天は紙コップに入れて、鉱物の色に合わせたリキュールやシロップを加えて色づけ。冷蔵庫で冷やし固めた後は、包丁で慎重にカットしていきます。このカットが、鉱物らしさを生み出す最大のポイント。蛍石なら斜め75度になるようにカットし、水晶は60度のカットでつくった三角柱の角をさらにカットして六角柱にしていきます。上級者向けとしては、本物の鉱物を食品用シリコンで型取りするという方法もあるそう。
初めのトライでつくった蛍石は、多少不格好ながら、ブルーキュラソーの水色が陽に透けてキラキラ輝き、見飽きません。日持ちするので、しばらくはガラス瓶に入れて窓辺に飾ってみようかな。そんな“観賞”の楽しみも、食べられる鉱物の魅力です。
文・写真/高瀬由紀子