知恵袋 Vol.5「いちご」

日々、口にしている食材にまつわる「おいしい話」「耳よりな話」を目ききに教わる「食の目ききの知恵袋」。今回は、これからの時季にさらにおいしくなる「いちご」について、品種ごとの特徴やおいしく食べるコツを、築地で活躍する青果卸売会社の目ききに教えていただきました。

 

【今回の目きき】神戸正徳さん
青果をはじめとする生鮮食品の卸売りを行う株式会社「メトロファーム」代表取締役。この業界のナンバーワン企業で数々の野菜を手がけた後に独立。地方の豊かな食文化を都市にも届けることを目指し、市場を通さない産直物も取り扱うほか、2020年には築地市場の近くに直営店もオープンした。とにかく食べるのが大好き。 https://metrofarm.jp

 今も昔も、ショートケーキのてっぺんに載っている赤い果物に心惹かれる人は多いのではないでしょうか。真っ赤に輝く円錐形のいちごは、子どもの頃の懐かしい思い出と一緒に、ずっと変わらず人気の果物です。

いちごが最も出回るのは、11月末から12月下旬にかけて。言うまでもなく、この時期はクリスマスケーキ需要に向けた書き入れ時なので、お値段も高くなりがちです。それが1225日を過ぎれば一転して買いやすい価格に値下がりしている様子を、この年末年始にもよく見かけました。そんないちごを買って来て、お正月休みのおともにした方もいらっしゃるかもしれません。

でも本来、いちごがいちばんおいしくなるのは2月。これからがまさにお買い時と言えます。

というのも、いちごは、寒暖の差が大きくなることで色や甘さが増してくるのですが、12月まではさほど寒くならないため、ハウスに暖房を入れて気温差を作ることで、鮮やかな赤色を出しているのです。ただ、それでは最低気温のほうが下がっていないため、十分な甘みが育ちません。2月に入ってぐっと寒くなることで、いちごの甘さも一気に増してくるのです。

 

いちご王国をリードする乙女

日本のいちごは、北は北海道から南は沖縄まで、ほぼ全国各地で作られています。それぞれの土地に合わせた改良がさかんに行われて、様々な品種が誕生し、ブランドいちごとして広く人気を博すものも生まれています。

なかでも栃木県で作られている「とちおとめ」は、誰もが知っている有名品種でしょう。栃木県は昔からのいちご生産地で、生産量は昭和43年(1968年)から52年連続で日本一。そんないちご王国を牽引する「とちおとめ」は1996年に品種登録されており、いまでは、おいしいいちごの代名詞となっています。

ただし、ブランド品種だからと言って特別な味なのかと言えばそうではなく、「とちおとめ」は昔ながらの懐かしい味が、その魅力です。程よい酸味と程よい甘味を持ち合わせたバランスの良い味は、かつてショートケーキに載っていたいちごの味そのもの。また、大きめの粒で、鮮やかな赤色に光っているところも、人気の理由でしょう。

なお、この「とちおとめ」をさらに品種改良して、ワンランク上のいちご品種として開発された「スカイベリー」も目下売り出し中で、人気が高まっています。

 

福岡の王と、静岡のほっぺ

その次によく知られている「あまおう」は、主に福岡県久留米市で生産されています。濃い赤色で粒も大きめですが、最大の特徴は、何と言っても糖度の高さ。味も濃厚で、最近では、アジアを中心とした海外でも高い人気となっています。

ちなみに、「あまおう」というネーミングは「甘い王」ではなくて、「あかい」「まるい」「おおきい」「うまい」の頭文字を取ったものなのだそうです。

静岡県の「紅ほっぺ」も、いかにもおいしそうなネーミングですよね。特徴としては、「とちおとめ」と同じように、酸味と甘味のバランスが良くて、日本のいちごらしい味と言えます。静岡はいちご生産量が多く、このほかにも「章姫(あきひめ)」や「きらぴ香」といった品種がよく知られています。

このように数々の人気品種が誕生しているのがいちごの特徴ですが、もちろん、有名品種でなくてもおいしいものはたくさんあります。

特に、道の駅や直売所などに行くと、出荷基準に満たない小さいものや反対に大きすぎるもの、ちょっと形がいびつないちごが格安で売られていますので、見かけたらぜひ買って、その味を楽しんでみてください。個人的には、ちょっと大きくなったいちごが好みです。なぜなら、それだけ長く生育したということなので、その分、いちごの味も増していると感じるからです。

 

とにかく「真っ赤」なものを

ツヤツヤと光る赤色はいちごのシンボルですが、スーパーで売られているものの中には、まだ白い部分が残っているようなものもあります。これは、収穫から消費者の手に渡るまでの流通過程に、どうしても5日前後かかってしまうため、真っ赤に成熟しきる前に摘み取っているのが理由です。

でも、ご安心ください。そのまま常温に置いておけば、徐々に赤みが増していって、食べ頃の目安である「真紅のいちご」になってくれます。

ひょっとすると酸味が好きな方もいらっしゃるかもしれませんが、やはり、いちごの最大の魅力は完熟したときの甘味だと思います。いちご狩りに行くと「いちばん真っ赤なのを取ってくださいね」と言われるように、真っ赤っ赤になるまで待っていただければ、その甘味を存分に堪能できるはずです。

文・構成/ドイエツコ